漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第42・43話を小児科医が解説! 慢性疾患を持つ子と親に起こる問題とは?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第42・43話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1~4集も発売され好評のようです!

 

前回のお話では、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の青葉さんが、ネフローゼ症候群の蓮君を院内学級に行かせてあげたいと、蓮君のママと交渉していました。蓮君のママは、子供の病気の再発のリスクを心配して院内学級に否定的な立場で、青葉さんの話を全く聞いてくれませんでしたね。

そんな青葉さん、彼と結婚して千葉に行くのか、このまま仕事を優先して北海道に残るのか…絶賛迷い中。小児外科・英樹先生にも病院でのCLSの仕事の件で、なにやらひどいことを言われていましたが…、このまま千葉に行ってしまうのでしょうか。

そしてなんやかんやしている内に、渦中の蓮君が何らかのトラブルに巻き込まれたようです。

それでは、見ていきましょう。

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第42・43話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

蓮君にトラブルがあったことを知ったCLS青葉さんは、処置室へ駆けつけます。そこには、おでこに擦り傷をこさえた蓮君と、小児外科医・英樹先生がいました。

院内学級に無断で行こうとした蓮君が、階段で転んで頭を打ったようで、英樹先生は傷の処置をしたとのこと。

事情を知った蓮君のママは、病室の前で激怒していました。”院内学級のことを持ち出した青葉さんのせいで事故が起きた”と興奮する蓮君のママは、青葉さんに「心のケアとか何とか言ってたけどさ、子供がいない人にそんなのできるもんですか!」と暴言を吐きます。言い返せない青葉さん。

騒ぎを聞きつけたセンター長・吾郎先生は、笑顔で蓮君のママをなだめラウンジへ連れていきます。飲み物を飲み少し落ち着いた蓮君のママは、ポツリポツリと話しだします。

”本当は院内学級に行かせてやりたい気持ちはあるけれど、病気の再発とともに深く後悔したこと”、”それからどうしても大げさに制限をさせてしまう”と。

吾郎先生は語ります。「小児ネフローゼ症候群は9割がいずれ再発しなくなる。再発を恐れずに蓮君の可能性を伸ばすようにしませんか?」

 

場面は病院の屋上。心無い暴言に傷ついたCLS青葉さんは真心先生と会話しています。”真心先生がどうしてYoutubeをやっているのか”の理由を聞いていた青葉さんは、だんだん真剣な表情になり…「ごめん、ちょっと戻る。」と再び病室へ。どうやら、真心先生の話に励まされ蓮君のママにもう一度だけ交渉してみようと奮い立った様子。

走って病室へ戻ってきた青葉さんは、再び蓮君のママに直談判します。

「籠の中は安全だけど…やっぱり窮屈なんですよ。おねがいします!蓮君を院内学級に行かせてください!お願いします!お願いします!」

その姿を影からじっと見つめていた小児外科・英樹先生。青葉さんに、過去の記憶”父に自分の小児科を潰すを中止してほしいと懇願する母の姿”を、重ねます。

結果的には交渉が上手くいかず、泣きそうな青葉さんに、英樹先生が声を掛けます。

「どうして蓮君がそんなに学校に行きたいか知ってるか?勉強して将来はCLSになりたいんだと。」

「俺はCLSは必要ないといった。だが俺たち医療従事者は選ばれた人間ではない。選ばれるかどうかではない。俺たちの使命は、患者の選択肢をできるだけ多く与えることだ。」

「泣き言ほざくなら、さっさと辞めろ。」

不器用な英樹先生の激励の言葉を聞いて、青葉さんの目から大粒の涙がこぼれます。

・・・

場面はナースステーション。センター長が青葉さんに話しかけています。どうやら蓮君のママから、蓮君を院内学級に行かせてほしいと連絡があったとのこと。喜びを隠しきれない青葉さん。

看護師長の大河原さんは青葉さんに言います。「これで安心して千葉にいけるんじゃない?」

病院からの帰宅時に、真心先生と一緒になった青葉さんは、真心先生に勇気をもらったことを感謝していました。どうやら、青葉さんはすでに結婚して千葉に行くか、ここ(北広島市)に残るか、結論を出しているようです。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第42・43話より

蓮くんのトラブルは、病気の再発ではなく怪我でした。

大きな怪我ではなくて良かったですが、青葉さんは蓮君のママにこっぴどくやられてしまいました。蓮君のママの話は、明らかに言いがかりで、かつ青葉さんのプライバシーに関わるひどい暴言も…。

とはいえ蓮くんのママは、自分のお子さんが難病にかかり再発・再入院という経過で精神的にも追い詰められていた様子。だから、徐々に蓮君へ過保護・過干渉になってしまっていたんですね。

センター長・吾郎先生のいぶし銀のアシストもありましたが、青葉さんのめげない説得がついに実を結び、ようやく蓮君は院内学級に行けるようになりました!

 

そして小児外科・英樹先生…。いつも通り厳しい口調でしたけれど、今回は青葉さんに激励の言葉をかけてくれていました。自分の母親の姿と重なったからかもしれません。

内容はこれ伝わるか~??という個性的な激励の言葉でしたが、、、青葉さんにはちゃんと伝わっていたみたい。いやしかし、英樹先生、素直じゃないなぁ。

 

ネフローゼ症候群のような慢性疾患を持つお子さんと親御さんは、今回の漫画の話のように、親が過干渉・過保護になるケースは時々見られます。慢性疾患を持つお子さんと言えど、子どもは将来的には親から巣立っていくものですし、やはり過干渉・過保護は望ましいことではありません。

今回は、「慢性疾患をもつ子と親の関係性について」少し書いてみたいと思います。

 

慢性疾患の子と親が陥りやすい過干渉・過保護、どうしたら良いのか

漫画で出てきたネフローゼ症候群は、慢性疾患の一つです。私がよく診療している1型糖尿病も代表的な慢性疾患と言えます。難治性のアトピー性皮膚炎や気管支喘息だってそうですし、色々な療育が必要な自閉症もそうですね。ほかにも、免疫疾患や、膠原病、癌などなど、、、。

タイプは違えど、このように小児医療の世界でも慢性疾患はたくさんあります。

慢性疾患を持つお子さんは、どんな心理的な変化を起こしやすいのでしょうか。そして、そのお子さんと家族の間には、どんな問題が生じてくる可能性があるのでしょうか。

これから、説明していきたいと思います。

慢性疾患を持つお子さんの心理的な変化

まず、慢性疾患はそれぞれ色々な症状があります。わかりやすい所でいえば、”痛み”や”吐き気”とかですが、これらの諸症状はまずお子さんを不快にさせます。”痒み”や”鼻水”だって慢性に起こればかなり不快です。

そしてそれがずーっと続くと言われた日には、「今後私(僕)はどうなってしまうのか…」と不安に駆られてします。これが不安感や抑うつ感につながります。

さらに、こういった症状は、調子が悪いからどこどこには行けない、これはできない、アレは危ないといった行動制限につながります。

行動制限が日常化してくると、子供たちは様々な経験ができないため集団生活で自信を失ったり、積極的な関わりができなくなる可能性があります。こういった行動は、最終的には引きこもりや不登校につながる可能性があります。

漫画で出てきたネフローゼ症候群の蓮君は、慢性疾患にありがちな心理状況には全くなっておらず、むしろ外の環境へ積極的に出ていきたい、というとても強い男の子でした。これは…ママというよりは、周囲で支えてくれる人に恵まれたからでしょうね。もしかすると漫画には登場していないパパなのかもしれませんし、CLSの青葉さんが心の支えになっていたのかもしれませんね。

 

慢性疾患の子どもと親の関係性

そして次は、慢性疾患の子どもと親の関係性についてです。これはちょっと複雑なので、図を出して説明しましょう。

まず親御さん、特にお母さんはお子さんに病気があることに関して大なり小なり”自分を責める気持ち”を持っていることが多いです。そして、親御さんはお子さんに色々な症状があることに対し、”病気・症状に対する不安”を抱えながら日々生活されていると思います。

その自責の念や不安・心配な気持ちは、疾患を持つお子さんへは、”過干渉・過保護”という形で現れることがあります。

親御さんは、どうしても時間的・空間的にそのお子さんに密に関わることになるため、他の兄弟・姉妹に対しては”手がかけられない”状態になります。

兄弟・姉妹たちは、表面には出さなくとも、”寂しい気持ち”を抱いたり、疾患を持つお子さんに対して”怒り”の感情を感じることもあるでしょう。

もちろん、その慢性疾患の病状が軽くコントロールできたり、治癒してしまえばこのような問題は起こらないと思いますが、そこは簡単には治らないのが慢性疾患です。病気の種類や病状、そしてお子さん・親御さんの性格などから程度は様々でしょうけれど、”家族の中に慢性疾患を持つお子さんがいる”ということは、色々な形で他の家族のメンバーに影響を与えていると思います。

 

慢性疾患を持つ子と親は、どうしたら良いのか

お子さんが慢性疾患の諸々で起こってくる心理的な問題に、負けず強く生きていくためには、まず基本となる「家庭での安心感」「自己肯定感」が重要です。

なお、これらを達成するには順序があります。

まず、第一は”家庭での安心感"です。安心感は、家族から与えられるものであり、お子さんが自分で準備できるものではありません。病気を持っていても受け入れてくれる、ありのままの自分でも認めてくれるという感覚から生まれてくるものが安心感です。

そして、"自己肯定感"。これは、誰かが与えるものではないところが難点です。つまりお子さんが自分から動いて経験した結果として「自分はやればできるんだ」という感覚が得られるわけで、この感覚こそが”自己肯定感”の正体なんですね。周囲がしてあげられるのは、お子さんのチャレンジする気持ちを受け入れ、時に励ましたりして、背中を見守ってあげることだけだと思います。

 

慢性疾患のお子さんの自己肯定感の難しさ

慢性疾患のお子さんの場合、色々な症状が邪魔をして、時にはチャレンジすること自体が危険だったりする場合があります。親御さんもお子さんの症状に対する不安があるので、ややもすると「不安だからすべて禁止」になりかねません。漫画にでてきた蓮君のママはまさにこのタイプでした。

「不安だからすべて禁止」は、子どもの安全を最優先になんて考えたらいかにも正当化されがちですが、真に子どものことを考えると良い手ではありません。これは、せっかくの子どものできる活動・経験の機会を奪ってしまい、下手すると自信のなさから引きこもりや不登校につながりかねない危険なことだということを、よく親御さんと医療者で共有しておく必要があります。

そしてここからは我々医師の出番で、どこまではチャレンジさせて良くて、ここからは止めておきましょうという線引きをする作業は、やはり専門的知識をもった我々の仕事です。

 

私の経験を書いておきますと、1型糖尿病に初めてかかってしまったお子さんとご家族には、必ずある言葉を伝えています。

「子どもには病気を持っていたとしても、やりたいことを存分にやらせてあげてほしいです。病気のコントロールは大事ですが、優先順位の一番ではありません。やりたいこと、チャレンジしたいことがあれば、それが一番の優先事項です。親はいつまでも生きているわけではないので、子供たちが自分で自分の病気を管理していけるように強く育ててあげる必要があります。そのために、学校や家庭でいろんなことにチャレンジさせてあげてください。治療が邪魔になるなら、その時はみんなで治療の方法を変更していきましょう。」

幸いなことに、1型糖尿病は最近治療のやり方の幅が医療技術の進歩でかなり広がり、運動でも勉強でも活動の幅に合わせてかなり医療が譲歩できる時代になりました。一人一人やり方が違うのは面倒ではないと言えばうそになりますが、優先すべきは”子どものやりたいこと”、これは動きません。

 

最後に

CLS青葉さんは、センター長・吾郎先生や、小児科医・真心先生に助けられながらも、なんとかネフローゼ症候群の蓮君のママの説得に成功することができました。

蓮くんのママも、不安⇒過保護・過干渉のジレンマから一歩踏み出すことができ、今後は蓮君との関係性もより良いものになっていきそうです。

そして、なんとCLS青葉さん、結婚して千葉に行くのか、このまま今の病院に残るのか心に決めたようですね。次回のお話が楽しみですね。

今回は以上となります。

 

追記

プラタナスの実 1巻・2巻・3巻・4巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいです。

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