漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第45・46話を小児科医が解説!兄・英樹はヤングケアラーだった!?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第45・46話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1~4集も発売され好評のようです!

 

前回のお話までで、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の青葉さんが、仕事を選ぶのか、それとも彼氏との結婚を選ぶのかという話が完結しました。結論としては、青葉さんは結婚を諦め、北広島市総合医療センターで今まで通りCLSとして仕事を続けることになりました。小児外科医・英樹先生は、CLS否定派で都度都度青葉さんと衝突していましたが、不器用ながらも青葉さんに”仕事とはかくあるものだ、医療とはかくあるものだ”というメッセージを伝え、青葉さんもそれに応えた形でした。

そして今回のお話から「鈴懸家の過去編」に入って行きます。

鈴懸家の”家庭崩壊”の詳細が描かれつつ、「兄・英樹先生、弟・真心先生と、父・吾郎先生との間の確執がなぜ生じたのか」の核心に迫っていくようですね。

それでは、見ていきましょう。

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第45・46話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

夜、病院の待合。小児外科医・英樹先生が、センター長であり父でもある吾郎先生に話しかけています。

「少し話しませんか…?鈴懸家の過去について」「あなたはどうして人が変わってしまったんですか?」「母さんの小児科を潰すもっと前は、あなたは違ったひとでした」

 

場面は過去、1991年の鈴懸家。家には兄・英樹6歳、弟・真心3歳の2人だけ。両親は仕事で遅いようで、2人は子どもだけで夜を過ごします。眠れない真心は、6歳の英樹にトントンしてもらい眠りにつきます。

朝2人が目覚めると、そこには笑顔の父・吾郎が。吾郎は、2人と野球をしようとグローブとバットを買ってきたようで、2人は大喜び。母が用意してくれた朝食を食べて、3人は野球の練習に。そこには確かに幸せな家族の姿がありました。

 

場面は再び現代へ。英樹先生の問いに、すぐに返答できない吾郎先生でしたが…突然PHPが鳴り響きます。

「お久しぶりです、吾郎先生。黒田です。」

その声に、過去の記憶がフラッシュバックする吾郎先生、なんと一言も話さず電話を切ってしまいます。

そして、場所を変え、ぽつぽつと話し始める吾郎先生。

はじめは、母と同じ志を持って医療に携わっていたつもりだったけれど、経営にかかわるようになったこと。病院の利益を気にしていなかったため、病院が倒産寸前に追い込まれ、小児科を潰すことでスタッフ・患者・家族を裏切ることになってしまったこと。ずっと神経をすり減らして仕事をしていたことを語ります。

吾郎先生は、自分の妻であり英樹先生の母である”ママ”が亡くなって目が覚めたと話し、

「英樹に…心から謝りたい…」「申し訳ない」と深く頭を下げるのでした。

しかし英樹先生は「僕は…あなたのために医師になったのではない」と話します。

 

場面は再び過去へ。英樹は小学校での授業を受けていました。将来の夢についての作文を書く国語の授業のようで、友達から”両親が医師だから、英樹も医師を目指すのだろう”と話しかけられた英樹は「絶対いやだよ。医者なんて。」と返します。

英樹は、かつて父と真心とした楽しかったあの野球の練習を思い出し、”野球選手になりたい” そう作文をしたためるのでした。

 

ある日、英樹が真心と野球の練習をしていると、父が現われ急に両親の離婚のことや、兄弟が離れ離れになることを伝えられます。兄と離れ離れになることに動揺する弟・真心。自身も不安に駆られつつも、弟を慰める英樹なのでした。

 

そして1996年夏。父・吾郎と英樹は、母と真心と離れて暮らすため、二人で車に乗り込みます。号泣する英樹に、父・吾郎は語ります。

「もう泣くなヒデ…。将来お医者さんになって父さんの力になってほしい。」

「今の病院を立派にして、そしたら母さんも戻れるようになる。きっと元の生活に戻れる。」

英樹は、父のこの言葉を聞いて”ある決意”をしたのでした。
彼は、父からもらった大事な”野球のグローブ”をゴミ捨て場に捨て、自らの夢と決別し医者になることを決意します。

全ては、”家族がまた一つになれる日”を信じてのことでした。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第45・46話より

タイミングを計ったように電話をかけてきた謎の人物「黒田 亮」。父・吾郎先生の記憶ではまだ後ろ姿しか出てきませんでしたが、株式会社WITHの代表取締役という名刺が出ていました。謎の人物ですが、吾郎先生がいきなり電話を切ったところからして、吾郎先生の過去の苦い経験に深く関わっている人物っぽいですよね。

大病院の院長として厳しい経営判断を迫られていた吾郎先生。もしかするとこの黒田亮、経営コンサルタント的な立場の人物で、小児科を潰すことになった黒幕なのかもしれませんね。父・吾郎先生は、小児科を潰したものの、病院を立て直して元の家族の形を取り戻すことを考えていたようですが、結局大病院の院長の座からは降りています。病院長の座から”降りた”のか”降ろされたのか”的な妄想もはかどりますが、その辺りにもこの黒田亮が関わっているのかもしれません。そして、また吾郎先生に電話をかけてきたその思惑とは、、、??吾郎先生が再び小児医療センター長として勤務し始めたのをどこかで聞きつけ、経営コンサルタントでまた甘い汁を吸おうと目論んでいるのかもしれません。

 

そして、英樹・真心の過去が語られ出しましたね。兄・英樹が、弟・真心のおむつ替えをしていましたが、英樹のおむつ替えの手付きは慣れたものでしたし、どうやら両親が夜帰ってこないで2人だけで眠ることも鈴懸家では日常茶飯事だったようですね。でも”6歳の兄が3歳の弟のおむつを替える”って、最近でいう所の「ヤングケアラー」っぽい感じですね…。鈴懸家は時代が時代なら問題視されてしまう家庭だったのかもしれません。

今でも医師の仕事はブラックだとは思いますが、ひと昔前はさらに過酷だったと聞きます。

両親が医師ですから、重症な患者さんが入院したら泊まり込みは当たり前、主治医になっていれば当直だろうがそうでなかろうが呼び出しはしょっちゅう…みたいな状況だったのでしょう。

 

そして、父・吾郎の小児科潰しから、両親の離婚と、家族離散への怒涛の展開…。子どもとしてはただただ大人の都合に振り回されるだけで可哀そうな限り…。

でも、昔の英樹・真心の関係性は、今の関係性とはずいぶん違ったみたいですね。兄弟で一緒に眠ったり、野球を一緒にしたりと、昔は兄弟の仲はとても良かったようです、というか弟・真心が兄によく懐いている感じ。大人になって久しぶりに再会した兄弟は、どちらかというと弟・真心先生が、兄・英樹先生に敵意むき出しという感じでしたから、過去に兄弟仲が決定的に崩壊するような出来事があったのかもしれません

さて、兄・英樹は、父の一言を信じて、野球選手になりたいという自分の夢を捨て、医師になることを決意したようですが、それは父を助けるためではなく「家族がまた一つになる」ためだったんですね。母が病気で急逝してしまった今となっては、叶うことのない夢になってしまいましたが…。

この頃から、兄・英樹は自らの主張を抑制し、父に従うような生活をするようになったのでしょうか。幼少期から、すでに兄・英樹の性格は歪み始めていたのかもしれませんね。

 

今回もストーリーを追っていくのがメインになりましたが、上で少し出てきた”ヤングケアラー”について書いてみようと思います。

 

子どもが子どもの面倒を見る”ヤングケアラー”とは?

日本では法令上の定義はまだないようですが、

本来大人が行うような家事や家族の世話などを、日常的に行っている子どもたちのことを「ヤングケアラー」と言います。

厚生労働省HPより引用

結構色々な状況で、ヤングケアラーになってしまうお子さんがいそうです。

私自身の記憶を振り返っても、子供のころは祖父母と同居していたので、祖父母の介護などを両親がしている時にそれを手伝ったり、時には一人でやったりしたこともありました。もちろん日常的にやっていたわけではないですが…、もし両親が祖父母のケアを十分にできるだけ健康でなければ、自分もヤングケアラーになっていた可能性はあるかもなぁ…と少し考えてしまいました。

最近のニュースにも、沖縄県でヤングケアラーの初の実態調査が行われたという内容のものがありましたね。

ヤングケアラーとみられる児童生徒1,088人 県が初の調査

自分が勤務している病院では、小児科医・メディカルソーシャルワーカーが中心となる家族支援チーム(FAST)があります。”困っている家庭”を福祉につないだり、個別支援会議を通じてサポートしたり、時には児童相談所と連携したりという活動をしています。私はFASTの主要メンバーのDr.ではありませんが会議には参加していて、”ヤングケアラー”のお子さんがいる家庭の話が出てくることもしばしばです。経済的に困っている家庭や、子どもの数が非常に多い家庭、両親や祖父母に慢性疾患や精神疾患がある家庭などでは比較的よく見られる問題かと思います。

子どもが、家事や家族の介護を手伝ったりすることは、ある意味では家族としては当然のことかもしれません。しかし、それが度を超え常態化することは、本来子どもとして当然あるはずの時間(友達とのたわいない会話を楽しむ時間、勉強に励む時間、部活に打ち込む時間)を犠牲にしていることになるかもしれません。

日本でも”ヤングケアラー”という言葉がだんだん認知されてきているとは思いますが、沖縄県で初の実態調査というような状況を鑑みると、まだまだ実情は明らかになってはいないのだと思います。

ヤングケアラーのお子さんが、どれくらい存在していて、どれくらい子どもの人生に影響を与えていて、今後どうしていくべきなのか。。。順を追って調べていかなければいけないことが沢山ありそうですね。

 

プラタナスの実に戻りますが、ある意味では両親が離婚したことで、兄・英樹は弟・真心の世話から解放されたという見方があるかもしれません。もちろん家族離散になってしまったことは、ヤングケアラーよりもっと問題がある、英樹・真心の心に対する逆境体験になってしまったとは思いますが。

 

最後に

今回のお話から、本格的に「鈴懸家の過去」について語られ始めましたね。

英樹先生が早速、子供らしくない決意をして、自分の気持ちを抑圧し始めましたが、このことが彼の人格形成に影響を与えたことは間違いがなさそうですね。

”家族がまた一つになれる日”のために頑張り続けていた英樹先生の夢が、母の死によって叶わぬ夢となってしまった。その瞬間に英樹先生の中で何かが壊れてしまい、今の彼の野望が生まれた…。そんな想像をしてしまいます。

今回は以上となります。

 

追記

プラタナスの実 1巻・2巻・3巻・4巻が発売になりました。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいです。

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