漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第11話を小児科医が解説! 母乳はいつまで続けるのがよいか

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第11話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

じつは、原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして、「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

 

第10話では、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)の患者さんの手術をするお話でした。

小児科医である鈴懸真心(すずかけまこ)先生を中心として、色々な立場の医療者(小児外科医、麻酔科医、レントゲン技師、看護師など)が協力しチームとなり、治療を進めるお話が展開しました。子どもの病気の治療だけではなく、心も救おうとする真心先生の姿にシビレましたね。

第11話では場面が転換し、新たなお話が始まったようですよ。

それでは見ていきましょう!

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第11話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

 

主人公の小児科医「鈴懸真心」先生が働く北広島市総合医療センターには、”乗ると幸せをよぶ”というジンクスのある「幸せの黄色いタクシー」が時々立ち寄ります。

その幸せの黄色いタクシーの運転手は「内村健二さん」。会社でも営業成績優秀な、ダジャレが好きなやり手のタクシードライバー。

奥さんの佳苗(かなえ)さんと2歳過ぎのお子さん「豊太(とよた)くん」と3人で暮らしています。

同級生だった内村さん夫妻は、同窓会での再開や、仕事で疲れ果てていた佳苗さんが健二さんが運転するタクシーに偶然乗り合わせたことなどをきっかけにして付き合うようになり、結婚したようです。

結婚当初はもちろん仲が良かった内村さん夫妻でしたが、子どもが生まれたことで奥さんの佳苗さんは忙しくなり、看護師になるという夢も諦めつつあるようです。

喧嘩こそなさそうでしたが、健二さんと奥さんは、育児に対する考え方の違いなどもあり、徐々にすれ違うようになりました。

 

ある日、内村さんが夜勤を終えて朝帰宅すると、奥さんと豊太(とよた)くんは買い物のために外出していました。

買い物を終えた佳苗さんは、豊太くんに「早く帰ろう」と声を掛けます。しかし道端で雪遊びをしている豊太(とよた)くんには、ママの声が届きません。

「歩き出せば付いてくるだろう…」と背を向ける佳苗さんは、ほんの少しだけ豊太くんから目を離します。

・・・「ブーブー!」 後ろから聞こえる豊太くんの声に、何気なく振り向く佳苗さん。

そこには猛スピードで突っ込んでくる車に、ヨタヨタと歩いて近づいていく豊太君の姿がッ!!!!

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第11話より

 

・・・やめてください、東元先生。この話の区切り方は、子持ちの親にはキツイ。。

どーなるの!? 豊太くんどーなるの!? ヤバいよヤバいよ!! 2歳で車と正面衝突はまずいよ!!?

 

・・・出川みたいになっちゃった。取り乱しました。落ち着きましょう(落ち着けませんが)。

 

今回のお話では、主人公の鈴懸真心先生は出てきませんでした。次回にお預けですかね。

 

場面は新しく変わり、医療センターにも立ち寄るタクシードライバーの家族のお話が始まりました。

内村健二さんが運転するタクシーは「幸せの黄色いタクシー」と呼ばれているようです。

奥さんの佳苗さんを射止めたトーク力(りょく)や、普段のダジャレ口調から察するに「乗客の気持ちを明るく前向きに変えてくれるタクシー」なんでしょうね。気持ちが前向きになったお客さんの色んな行動が上手くいくようになり、それが”幸せを呼ぶ”と噂になり…ファンが多くなり、営業成績もいいと。

しかし仕事ができる健二さんも「子どもが出来てから奥さんの佳苗さんとすれ違いばかり…」と悩みがある様子。

仕事ができる旦那さん、ワンオペ育児に疲れ果てた奥さん、という図式なのかな。

とは言え、健二さんは息子の豊太くんをとっても愛しているようですから、そこまで極端に「家庭より仕事派」ではなさそうです。

しかし、奥さんは健二さんに不満があるのか、健二さんに対する口調はちょっとキツイですね・・・。

奥さんの佳苗さんは育児書をよく読んでいる様子で、ごはんを普通に食べている2才過ぎの豊太くんに「栄養がある、アレルギーも怖いし母乳と併用する方がよい」という理由で母乳を与えていました。

健二さんの「保育園に入れた方がいいんじゃない?」という意見も佳苗さんには届かないようです。

佳苗さん曰く「男の子は体が弱い、保育園に行くと色んな菌をもらってくる、ケガするだけ」とのこと。

一人目のお子さんという所もあってか、奥さんの佳苗さんは、緊張度が高い育児をしていて疲れている様子。ちょっと心配です。

そして、最後のページ。。

豊太くん、次号どうなってしまうのか・・・。もう心配で心配でたまりません。。

 

母乳は何歳まで与えてよいのか “世界の推奨”と“日本の推奨”

今回のお話の中では、豊太くんのお母さんは、2歳過ぎの豊太くんに母乳を与えていました。

母乳に関しては、Dr.アシュアの臨床経験からすると、だいたい1歳半くらいまでに離乳していくお子さんが多いと思います。

豊太くんのお母さんの佳苗さんは、育児書の影響なのか、2歳を過ぎてもまだまだ母乳を与えていきたい様子ですね。

これについて少し深掘りしていこうと思います。

 

まず世界での離乳の推奨時期についてですが、海外のガイドラインにちょっと面白い推奨があります。

WHOが公開している”人生を通じた栄養における必要な行動”と題した文書がWebで読めますが、そこに母乳をいつまで続けるかについて記載があります。

原文はこちら

<世界保健機関(WHO)勧告>
乳児は生後6か月間は母乳のみで育て、最適な成長と発育を実現する必要があります。

乳児は必要とする栄養が増え変化していくため、離乳食を摂取しながら、最長2年間またはそれ以降も母乳育児を継続するべきです。

<主要なエビデンスのまとめ>
母乳育児は、生後6か月間は乳児にとって最適な栄養となり、生後1年目以降も栄養面で重要な役割を果たします。

母乳育児は、下痢や肺炎などの一般的なこどもの病気を予防し、最適な成長をサポートし、こどもの知能指数(IQ)と関連しています。

また母乳育児を続けることは、母がすぐにまた妊娠してしまうことを予防し、乳がんや卵巣がん、2型糖尿病、高血圧、母親のいくつかの心血管疾患のリスクの低下と関連しています。

WHO-Essential nutrition actions: mainstreaming nutrition through the lifecourseより

つまりWHO的には、6か月は母乳がオススメ、最長2年間、それ以降も続けても良いよ、長く母乳栄養をするとお母さんにとってもメリット多いよと言っているわけです。

6か月間は母乳がオススメという根拠は、上に書いてある通りですが、このブログの以前の記事で題材にしたJAMAの論文では、母乳栄養をすることで白血病のリスクを20%下げられるというものがありました。この論文でも「6か月は母乳栄養をするとよい」というお話だったと思います。

CHECK
母乳育児で、こどもの白血病のリスクが約20%減少する!?

こんにちは、Dr.アシュアです。今日は、JAMAの姉妹紙であるJAMA Pediatricsからの論文をご紹介したいと思います。 テーマはズバリ、母乳栄養と小児期白血病の発症についての関連性をみた、メ ...

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アメリカではどうでしょうか。

<アメリカ小児科学会からの推奨>

約6か月間は完全母乳で栄養しましょう。

その後、離乳食が開始されたときも母乳育児を継続し、母とこどもが共に希望する場合には1年以上母乳育児を継続しましょう。

Pediatrics. 2012;129(3):e827. より

アメリカ小児科学会の推奨は、6か月は母乳栄養がオススメ、母乳の継続に関しては1年以上でもよいよ、とWHOよりは継続期間は短い印象でした。

 

それでは、日本での推奨はどうなっているのでしょうか。

まず日本での「いつ離乳が完了しているか」の生データを見てみます。

この図からわかるように、厚労省のデータでは「平成27年度の調べでは、回答者の約96%が1歳半までには離乳していた」と言えます。

やはりほとんどのママがだいたい1歳半くらいまでには離乳しているのは、だいたい事実だろうと考えて良さそうです。

逆に、1歳半以降も母乳を継続しているのはかなり少数派と言ってよいでしょう。

 

厚生省から出ている「授乳・離乳の支援ガイド2019」では、

・12-18か月で離乳することが多い

・いつまで乳汁を継続するかについては、母親等の考えを尊重して支援を進める

「授乳・離乳の支援ガイド2019」より

と記載があり、実は母乳栄養をいつまで続けるかについての推奨は、明確にはありませんでした。

おそらくWHOなどからの推奨をもとにこのような表現になっているのだろうと思います。

 

まとめとしては、以下の通りです。

ココがポイント

・世界的には6か月は母乳を与えると〇。続けるのは1年~2年、それ以上も禁止はされていない

・日本では1歳半くらいで母乳をやめることが多い、いつまで続けるかは母親等の考え方も加味して決める

 

プラタナスの実第11話に戻りますが、奥さんの佳苗さんはごはんを普通に食べている2才過ぎの豊太くんに「栄養がある、アレルギーも怖いし母乳と併用する方がよい」という理由で母乳を与えていましたね。

日本の平均的なお母さんと比較すると、大分長く母乳栄養を続けている、少数派にあたるようです。

 

母乳を続けることのメリット、デメリットについて

母乳を続けることのメリットについては、前の項で説明した通りで、たくさんあります。

感染予防になる、最適な成長をサポートできる、IQと関連する、母がすぐ妊娠してしまうのを予防できる、母の色々な病気のリスクを下げる

といった点でした。

 

しかし、母乳を続けていくデメリットについても記載しておかねばいけないでしょう。

僕Dr.アシュアも漫画の主人公と一緒の小児科医ですが、専門を持っていて”内分泌”という領域を担当しています。

内分泌はいわゆるホルモンで、成長ホルモンや、性ホルモンなどなど色々です。なので、近医から紹介される患者さんは「成長に関して問題を抱えたお子さん」が多いです。つまり、低身長や低体重ですね。ここに、母乳栄養が関わってきます。

よくある低身長・低体重の診療ストーリーを示してみます。

1歳前後のお子さんの低身長・低体重。

話を聞いてみると、母乳大好きで離乳食が進んでいない、食べてくれない。しかも夜何度も起きて母乳を欲しがり、母は疲れ切っている。

栄養指導で調査してみると、やはり栄養摂取量が明らかに足りていない。

問診・診察からは、本人の”食べる能力”はちゃんとありそう。

検査をいろいろしても、背景に成長障害を起こすような病気はない。

 

よくお母さんと相談し、離乳を積極的に進めてみる作戦をとることに。

すると、とたんに離乳食を食べるようになり、1歳半くらいまでに体重が追いつき、それに遅れて身長が回復!

 

「離乳したら、良く眠るようになったし、よく食べるようになりました!」母もニコニコ。

外来通院は終わりになりましたとさ。

 

しっかり母乳飲んでいれば栄養的にも十分なんでしょ?なんでこんなことが起こるの?となると思います。

もう少し詳しく説明しましょう。

母乳の中には胃腸炎を予防するような物質のほかに、消化管を動かすホルモンが入っています。

これは腸の動きも良くしとても良い母乳のもつ大きなメリットの一つなのですが、一つ難点があります。

母乳は消化が良い=腹持ちが良くないということです。だから夜もお腹がへってしまい、何度も哺乳する状態が続いてしまうことになります。

 

また、母乳は6か月未満の赤ちゃんには完璧な栄養だけど、流石に普通の幼児食よりは栄養が少なく、かさが多いです。

6か月以上のお子さんの成長を母乳だけで何とかしようとすると、すごい量を飲まなければいけなくなり、それは体が大きくなるほどさらに多量の母乳量が必要になります。なので、だんだん無理が出てきて栄養不良になってきます。

しかしとにかく母乳の量を飲んでいるもんだから、胃のスペースが空きづらく離乳食がなかなか入らない。

必然的に離乳食の練習の時間が短くなるので、離乳食が進まない。

 

こんな感じで、母乳大好きなお子さんの中に、負のスパイラルが生まれる場合があります。こうなってしまうと次第に体重が伸びなくなり、身長にも影響が出てきます。

 

これは完全に僕の経験則ですが、母乳を飲んでいても離乳食をバクバク食べていて幼児食へと進められているパターンなら、おそらく身長・体重に影響が出ることはないのではないでしょう(そういう子は病院に来ないので実際はわかりませんが)。これなら、母・こどもが共に求めているなら、無理に母乳を止めないで続けても良いのだろうと思います。

 

しかし、母は母乳をあげる・あげないを理性的にコントロールできても、こどもは理性的にコントロールは出来ませんよね。おっぱい大好きっ子は「栄養的には食事の方がいいから、食事をがんばって食べて、でもおっぱい好きだし、ちょっとおっぱい飲もう!」とか考えないと思うんですよね。

その結果、母乳優先の栄養になると、上のように困ったことになってくるのではないでしょうか。

 

そして、「授乳・離乳の支援ガイド2019」にも記載がありますが、一般的に母乳栄養が栄養のメインになって栄養不良が進んでくると、鉄欠乏・ビタミンD欠乏が進んできます。

鉄欠乏が進めば貧血になってしまいますし、ビタミンD欠乏が進めば、足が曲がるO脚や、低カルシウム血症によるけいれんなど怖い病気につながったりします。

母乳栄養を安全に続けるためには、鉄・ビタミンDが含まれた食品を積極的に離乳食にも取り入れていく必要があると思います。

 

プラタナスの実第11話に戻りますが、2歳過ぎの豊太くんは、まだ母乳を飲んでいました。

奥さんの佳苗さんは、食事のバランスや貧血やビタミンD対策はされていたのでしょうか…。貧血やけいれんなど起こしていないといいのですが。

ただ、今回のお話だとそれどころではないですよね。豊太くん、車の前に飛び出てお話終わってますからね・・・。大事故にならないといいけど・・・。

 

最後に 色んな家族がいる 色んな考え方がある

今回は、第11話のあらすじから、母乳をいつまで飲ませるのかということを少し考えてみました。母乳を”長期に続けること”はメリットだけではなく、デメリットもあることを分かってもらえると嬉しいです。

 

僕的には、1歳半までに離乳したほうがいい!とか、2歳過ぎまで母乳を続けた方がいいんだー!と持論を振りかざすことは絶対にしません。

 

それは、世の中には色んな家族がいますし、考え方も人それぞれだから。

「家族・本人にとって何がより良い方針なのか」は、家族で変わって当然です。

 

家族にこうしたほうがいいですよとオススメしたり、僕の考え方をお話する時は、たった一つ。

「こどもに悪影響がありそうかどうか」。これだけです。

 

お母さんが色々考えて工夫していたとしても、お子さんに悪影響が出ていると判断される場合には、僕は勇気をもって色々な提案や代替案を出して相談します。それが、子どもの代弁者たる小児科医の役割だから。

 

今回は以上となります。プラタナスの実を読んでいると、色んな発見があって毎回楽しいです。ただ、今回に限っては、来週号を読むのが怖い・・・。豊太くん、大事故にならないことを祈るばかりです。

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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