こんな症状、あなたならどうする?

アセトアミノフェンとイブプロフェンどちらが優れているか?という問いに挑む

こんにちは、Dr.アシュアです。

お子さんの”熱さましの薬”として、一番使われていてお勧めされているのは、アセトアミノフェンです。お薬の名前「アンヒバ、アルピニー、カロナール、パラセタ」の方が有名かもしれません。

 

今回はアセトアミノフェンと、こちらも解熱鎮痛薬として同じく流通している薬品であるイブプロフェンの2つのお薬について、解熱の程度、鎮痛の程度、安全性の点で比較した論文をご紹介します。

 

イブプロフェンも商品の名前としては「イブ」の方が有名かもしれません。

 

それでは、今回の主役に登場して頂きましょう。

JAMA Netw Open. 2020 Oct 1;3(10):e2022398. PMID: 33125495

Comparison of Acetaminophen (Paracetamol) With Ibuprofen for Treatment of Fever or Pain in Children Younger Than 2 Years: A Systematic Review and Meta-analysis

Eunicia Tan, et al.

出典はJAMAですね。超有名雑誌の一つです。

では見ていきましょう。

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背景と目的-Background and Objective

アセトアミノフェンは世界的にも、新生児期からの使用が一律に推奨されていて、「こどもの解熱剤といえばアセトアミノフェン」というイメージがありますね。

ですが、1日の最大投与量は国によって違います。例えば、ニュージーランド・イギリスでは60mg/kg/日、アメリカでは90mg/kg/日という感じです。

 

そしてイブプロフェンに関しては、国によって「推奨年齢」から異なっています。

ニュージーランド・イギリスでは生後1か月以降で推奨、アメリカでは生後6か月以降で推奨とされており、推奨量も違います。

 

これは不思議ですね、なぜでしょうか。

実は、低年齢の小児にイブプロフェンを用いることはリスクがあるという研究結果があるためなのです。

低年齢のこどもにイブプロフェンを用いることはリスクという報告

・早期乳児にイブプロフェンを使用すると、脱水からくる腎障害のリスクがある。

・北米、英国、ヨーロッパで行われた疫学研究では、イブプロフェンが重篤な細菌感染症の発症に関与している可能性が示唆された。

・症例対照研究およびプロスペクティブコホート研究では、水痘にかかった時や肺炎にかかった時にイブプロフェンを使用すると、皮膚の感染症を発症するリスクが2倍~5倍増加する。

こういった理由から、早期乳児にはイブプロフェンが推奨されず、そのため多くの小児科医は安全性の方を重視する結果、アセトアミノフェンを解熱鎮痛薬として使用するに至っているわけです。

 

しかし、昨今これに反論するような研究結果も出てきています。

小児におけるアセトアミノフェンの使用が、喘息や関連するアトピー性疾患の発症リスクの増加と関連していることを示唆するエビデンスが増えていたり、実はイブプロフェンの方が解熱作用は強くて安全性も高いのでは?という様な研究結果です。

 

こういったことから、筆者らは「実際アセトアミノフェンとイブプロフェンどちらがオススメなの?」という疑問をもち、特に安全性・有効性に関して議論の的になる2歳未満の小児においてシステマティックレビューが少ないという背景もあり、今回レビューしてみようではないか、となったというわけです。

 

まとめますと、今回の論文では、

2歳未満の小児において、アセトアミノフェンとイブプロフェンの2つの解熱薬について「安全性、解熱剤としての効果、鎮痛薬としての効果」の差はあるのか?、様々な文献のまとめをしてみよう、という事が目的となります。

 

方法-Method

データベース

MEDLINE、Embase、CINAHL、およびCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)といったデータベースを、キーワードや統制語を用いて、各々のデータベースのスタートから2019年3月までの期間、なるべくもれがないように検索しました。

 

統制語について補足を書いたので、はてなマークになった人は是非読んでみてください↓

統制語について

統制語というのは、いわゆるデータベースの論文についているキーワードのタグみたいなものです。

もっとかみ砕いて言えば、小児という言葉は、日本語でも色々な表現の仕方があります。

小児だけでも「こども、子ども、子供、小児、子、児童」etc…ありますし、さらに年齢の区分を入れるともっと複雑です「新生児、乳児、幼児、学童、乳幼児…」。

英語を含めたほかの言語でも同じで、言語において一つの概念について色々な表現の仕方があるのは普通です。英語なら、child、childhood、children…などなど。

これら思いつくものを、すべて1個ずつデータベースで検索しても良いかも…ですが、ダブりも多くなりますし、そもそも労力がヤバイです。

しかも、このやり方だと検索してない綴りの単語は絶対拾えないので、検索が完璧にはできず「もれ」が生じているかもしれません。

だから、有名なデータベースは統制語というタグがあって、データベースが始まった頃から、ある論文が登録されると随時タグ付けがされていくことが多いです。つまり、こども関連の論文には基本的に「小児」というタグが付いているので、統制語=タグで検索をかけてあげれば小児の関連の論文は、もれなく検索できますよということです。

検索は言語や出版年に制限を設けず行われました。さらに、進行中の研究または最近完了した研究については、ClinicalTrials.govおよびAustralian New Zealand Clinical Trials Registryを検索し、該当しそうな研究を見つけたようです。

 

著者1名が検索および最初のタイトル/抄録の検索を行い、その後2人の著者でそれぞれ独立して論文の全文を読み、レビューにふさわしいかどうか評価をしました。

 

適格基準

下記の研究が今回のレビューに適格な論文とされました。

適格基準はこれ!

・2 歳未満の小児の発熱または疼痛に対するアセトアミノフェンとイブプロフェンの短期使用を比較した論文

・1 つ以上の主要アウトカムまたは副次的アウトカムを報告した研究で、短期および長期の追跡調査を行った研究

・研究の種類は臨床試験、コホート研究、症例対照研究

ただし、2 歳以上の年齢層のデータが含まれた研究の場合は、研究者が未発表のデータを提供してくれた場合は2 歳未満の小児が含まれていればOKとされました。反対に、研究者が追加データを提供してくれなかった場合は、対象者の50%以上が2歳未満である研究ならOKとされました。

 

データ収集と分析

データの抽出は2人の著者で行われ、主要アウトカムは連続変数での「治療開始から4時間以内の発熱(連続変数)・疼痛」でした。

副次的転帰は「4時間以内の発熱(カテゴリー変数)、4~24時間後・1~3日後・3日以上の発熱・疼痛」でした。

安全性に関しては、28日以内と28日以上で測定され、副作用として腎障害、消化管出血、肝障害、重度の皮膚感染症・膿疱、喘息・喘鳴が含まれました。

 

各々の研究の質に関しては、2人の著者らが独立して評価ツールを用いて各研究のバイアスのリスクを評価していました。質の議論について2人の著者の意見が割れた時には、第3著者が入り協議を行い結論を出したようです。そしてGRADEアプローチを用いて、それぞれのアウトカムの最終的な質についても評価を行いました。

 

このレビューでは、ランダム化比較試験と、非ランダム化比較試験が両方含まれているのですが、もちろん別々に解析していました。

レビューに含まれている研究の結果の方向性が、バラバラなものなのか、ある程度方向性があるものかも評価しているようですし、結果の効果について差と比を両方示している所はとても好感が持てました。

 

結果-Results

データベース検索によって、3933件の研究がまず見つけられましたが、まずタイトル・抄録の検討で大幅に除外され、276件の研究を全文書読み検討されたようです。最終的には19件の研究が今回のレビューに選択されました

 

ランダム化比較試験の方では11件の研究があり、28450人の小児のデータがありました。このうち2件の研究はバイアスのリスクが高かったようです。

非ランダム化比較試験の方では、8件の研究があり、212688人の小児のデータがありました。こちらの方は、全ての研究がバイアスのリスクが中等度~高度だったようです。

 

研究は米国、英国、フランス、オランダ、イスラエル、トルコ、イランで実施されたものでした。残念、日本の研究はなかったようです。

これらの研究は、救急外来、病院内の小児科、地域のクリニックなど、様々な臨床現場で行われたようです。

 

含まれた小児は、出生時~18歳までの年齢のお子さんが含まれていました。今回のシステマティックレビューでは2歳未満の小児を対象としているので、そのデータを抽出して検討しています。

 

ここまでが結果を見る前の、研究で収集されたデータの”大まかな見た目”についてでした。この辺結構大事だったりします。

データ収集された場所は色々な臨床現場なので、リアルワールドのデータっぽいですが、アジアの国のデータがないのは、結果をそのまま日本人に当てはめちゃいけないかも‥と思うべき点です。ここ、大事。

 

さてさて、結果を見ていきましょう。非ランダム化比較試験から得られた結果は、基本的にエビデンスの質が低いので今回は割愛します。

結果① 解熱の力について

アセトアミノフェンと比較して、イブプロフェンは4時間以内の体温低下と関連していることが示された

(4件の研究、参加者 435人;SMD 0.38;95%CI、0.08-0.67;P = 0.01;I2 = 49%)

これはランダム化比較試験から得られた、それなりに高いエビデンスに基づいた結果でした。さらに、バイアスのリスクが高い2件の研究を除いても結果は変わらなかったようです。

 

結果② 痛みを和らげる力について

アセトアミノフェンと比較して、イブプロフェンは治療開始から4~24時間後の疼痛の軽減と関連していることを示した

(2件の研究、参加者 535人;SMD 0.20;95%CI、0.03-0.37;P = 0.02)

299人の参加者を対象とした1件の研究から得られた質の低いエビデンスでは、イブプロフェンとアセトアミノフェンの鎮痛の効果は、1日から3日目には違いはなかった(SMD、0.02;95%CI、-0.21~0.24)。

カテゴリー別の痛みの評価についての研究でも同じような結果だったようですが、全般的にエビデンスが低かったようなので割愛しました。

 

結果③ 安全性について

短期(すなわち28日以内)の安全性については、7件の研究 27,932人が参加した中等質のエビデンスが示されており、イブプロフェンとアセトアミノフェンのどちらを服用している小児でも副作用の発生確率は同等であることが示された

(イブプロフェンは18,371人中264人[1. 4%]、アセトアミノフェンは9561人中126人[1.3%]であった)

(OR 1.08;95%CI、0.87-1.33;P = 0.50;I2 = 0%)

2件の研究 354人を含めたものだけが、長期(すなわち28日以上)の安全性に関する結果を報告していた。

さらにそのうち1件、45名の参加者を対象としたデータでのみ、イブプロフェンまたはアセトアミノフェンを服用している小児の喘息・喘鳴の程度が報告されており、それは同程度でした(26名中15名(57.7%) vs 19名中12名(63.2%))。

腎障害、消化管出血、肝障害、重度の皮膚の感染症・膿胞は、発生そのものがなかった。

基本的に副作用の発生はほとんどの研究で、報告そのものの数が少なかった印象です。

 

結論-Conclusions

今回のシステマティックレビューの結論を示します。

今回の論文の結論

この研究は、「イブプロフェンとアセトアミノフェンの2歳未満の小児における効果、安全性を比較した」ものである。

イブプロフェンはアセトアミノフェンよりも、使用した24時間以内の解熱と痛みの軽減の程度が強いと考えられた(ただし使用後4時間以内の鎮痛効果のデータはない)。

イブプロフェンでもアセトアミノフェンでも、短期的には副作用が出現する可能性は非常に低いと思われた。

論文中の討論の所でも、言及されていましたが、データ不足のために、

・重篤な細菌感染症のリスクに関するエビデンスはまだ決定的ではないこと

・6か月未満の早期乳児の長期経過の副作用に関するデータは限られていること

が大事な追記点ですね。

 

なにが分かったか

2歳未満の小児にイブプロフェンとアセトアミノフェンを使用したら、どちらが優れているかということを書いた論文でした。

 

24時間以内の効果を考えるとイブプロフェンが良さそうな気持ちになりました。しかも、今までの研究で言われていたようなイブプロフェンの短期的な副作用についてもほとんどないようですよね。

さらに最近の論調では、

・イブプロフェンの使用は、使用後28日まではアセトアミノフェンと比較して喘息の罹患率の点で保護効果があるという論文

・205487人を対象とした疫学研究において生後1年目のアセトアミノフェンの使用は、6~7歳での喘鳴・喘息の危険因子であるとする論文

もあり、アセトアミノフェンの使用には長期的なリスクがあるのかもしれないという話も出てきています。

 

今回の論文でも触れられているように、イブプロフェンの長期的なリスクについては現状あまり情報がないので、今後イブプロフェンの長期的なリスクが評価されて見直されるようなら、子どもの解熱鎮痛薬としてイブプロフェンが推奨される時代がくるのかもしれませんね~。

 

今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。

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