こんな症状、あなたならどうする?

一人っ子、祖父母と同居で、こどもが肥満になる!?

こんにちは、Dr.アシュアです。

肥満に関しては、今や世界中で問題になっていることは、皆さんも良くご存じだろうと思います。

一介の小児科医である僕も、外来で肥満のお子さんをよく見ていますが、すぐには痩せられないお子さんが本当に多いです。

日々悩みながら診療を行っています。

今回は、肥満のお子さん・ご家族の診療の中で、疑問に思っていたこと

一人っ子の方が肥満になるリスクが高いのでは・・・?

おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に暮らしている方が、肥満になりやすいのでは?

を検証している論文を見つけたので、ご紹介したいと思います。

なお、日本からの報告なので、結果はすぐに自分たちに当てはめられますね。

ポイント

PLoS One. 2017 Apr 17;12(4)

Changes in the effects of living with no siblings or living with grandparents on overweight and obesity in children: Results from a national cohort study in Japan.

Ikeda N, Fuse K, Nishi N.

原文はこちらへ

結論としては、

注意ポイント

幼児期から学齢期までの児童の生涯にわたって、兄弟なしで暮らしていると8歳以上で過体重・肥満の可能性が高くなる可能性がある。また、祖父母と一緒に暮らしていると、5.5歳以上で過体重・肥満の可能性が高くなる。

です。

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研究の対象者について-Patient

2001年の1月のある1週間と、7月のある1週間の間に生まれた合計53,575人の子供を調査の対象としています。

子供が生後6か月になったところで、最初に連絡をとり調査を開始されていますが、データの欠損などから対象者が厳選されて、最終的には43,046人の小児のデータが用いられています。

ちなみにこれらのデータは、日本の21世紀新生児サーベイにおける縦断研究として2.5歳~13歳まで毎年追跡したものが用いられています。調査は厚生労働省が実施しています。

 

過体重および肥満の定義は、国際肥満タスクフォースの基準に従っています。

年齢と性別で調整して、18歳時点でBMI 25以上に相当するレベルを肥満と判定しているという事です。

 

方法-Method

こういった調査では、例えば兄弟がいる群と、兄弟がいない群である要素が偏って存在していて、結果に影響を及ぼしていることがあり、これらの要素を『交絡因子』と呼びます。

 

例えば、兄弟がいる群は、低出生体重児がとても多くて、

    兄弟がいない群は、低出生体重児がとても少なかったりした、としましょう。

 

実際、低出生体重児は将来的に肥満になる確率が高かったりします。

 

最終的に両群で肥満児の割合を比べようとすると、『低出生体重児』という要因が強く影響してしまっています。

すると、兄弟がいること・いないことで肥満の割合がどう違うのか、の純粋な比較ができなくなってしまうことが分かると思います。

こんな感じで、『交絡因子』については事前に想定しておくこと、測定しておくことが超重要です。その上で、交絡因子について『調整』を行って、自分たちが純粋に比較したいものを、なるべく理想的な状態で比較できるようにします。

 

この研究では、時間で変化しない共変量と、時間で変化する共変量を設定して、調整しています。

 

共変量は、交絡因子だったりそうでなかったりしますが、今回は交絡因子とほぼ同義だと思ってよいでしょう。

 

時間で変化しない共変量として、調査データに添付された出生記録から出生順序、出生時体重、母体年齢を設定しています。

時間で変化する共変量を、都会か田舎か、母親が家の外で働いた時間、身体計測をした1年の中での時期、平日のテレビ視聴時間を設定しています。

 

これらの要素で調整した、性別別のランダム効果ロジットモデルというものを作成して、

各年齢において、兄弟がいないことや祖父母と同居していることに対する過体重・肥満のオッズ比を評価しています。

医療統計の専門的な知識がないと理解が難しい部分が多々ありますが、要は交絡因子を調整することにちゃんと労力を払っているという事ですね。

 

結果-Result

まずは、2.5歳~13歳までの男児、女児に分けた肥満児の出現率の変化をみたグラフを引用します。

 

PLoS One. 2017 Apr 17;12(4) 一部を改変

A:兄弟がいるかいないかで肥満児の割合が経時的にどう変化するか

ここからは以下のことが分かります。

ポイント

男児は11歳まで勝手に肥満児の割合が上がるけど、兄弟がいない実線の方が、上昇度が大きい。

女児は、兄弟がいない実線の方は、9歳まで肥満児の割合は上がり続ける。兄弟がいる点線群は肥満児の割合は減り続けている。

 

B:祖父母と同居しているかどうかで肥満児の割合が経時的にどう変化するか

このグラフからは以下のことが分かります。

ポイント

男児も女児も、祖父母と同居している実線の方が、肥満児の割合はずっと高い。

 

 

そして、方法の所で説明した各種の共変量を調整したモデルを用いて、オッズ比を計算した表も引用します。

PLoS One. 2017 Apr 17;12(4) 一部を改変

8歳以上だと兄弟と同居していない小児は、同居している小児と比較して有意に過体重および肥満が多いという結果でした。

ポイント

オッズ比は、男児では11歳で最も高値でした。女児では10歳と13歳で最も高値でした。

男児 11歳時 1.87(95%信頼区間 1.49, 2.33)

女児 10歳時 1.53(95%信頼区間 1.30, 1.80)

女児 13歳時 1.54(95%信頼区間 1.27, 1.86)

 

オッズ比が、また分かりにくいのですが、下記のような意味になります。

オッズ比=あることが起こる確率/あることが起こらない確率

 

つまり、男児で11歳時のオッズ比が1.87ということは、

男児で11歳のときに、兄弟がいないこどもは、兄弟がいる子供に比べて、1.87倍肥満になりやすいという意味です。

かなり高いですよね。

 

また、祖父母と同居していると、5.5歳以上で肥満の罹患率が有意に高くなり、その影響が13歳までは継続していました。

 

論文の限界-Limitation

著者らがしめしていたLimitationは以下のものでした。

①事情があって別居しているような兄弟を特定することができなかった。両親からの本当の子どもである兄弟と、養子などでの兄弟を区別することができなかった。

②祖父母と同居している、という定義が比較的単純だった。両親+祖父母と一緒に暮らしていたのか、祖父母のみと暮らしていたのかを区別できなかった。

③祖母との同居と、祖父との同居を区別して評価しなかった。

④妊娠中の母親の喫煙、両親や祖父母の体重の状態、その他の遺伝的要因など、重要な共変量の交絡を調整することができなかった。

⑤食事や身体活動などの生活習慣の影響を考慮せずに、家族構造と小児肥満の2つの要因間の直接関係のみを調べた。

 

結論-conclusion

著者らは、結論として幼児期から学齢期までの児童の生涯にわたって、兄弟姉妹を持たないこどもは、特に幼い年齢で過体重や肥満の可能性を高め、祖父母との生活の悪影響は学齢の直前に現れる可能性がある。と結んでいます。

 

論文を読んで-まとめ-

一般診療に携わりながら、

一人っ子だったりすると、家で一人でいる時間が長い=お菓子・ジュースに接する時間が長くなりがち、

おじいちゃん・おばあちゃんがいるとどうしても、孫には甘くお菓子・ジュースが与えられてしまう

ことを感じていました。

 

今回の論文を読んで、結果に納得しました。

それと同時にこんな疑問も持ちました。

今回ご紹介した論文の結論からは、核家族の増加が続く日本で一人っ子の家庭が増えると、この論文のように肥満児の割合が増えていく可能性があるという事ですよね。逆に理想的なのは、核家族で兄弟がいる家庭ってことです。

『祖父母と一緒に暮らさないで、かつ兄弟がいる家庭って、特にママにはきついのでは・・・?』

両親だけで子供を育てていく中でも、複数の子供が育てていけるように。世のお母さんを負担がかかりすぎないように。

社会が変わっていく必要があるんでしょうね。

 

今回は以上となります。

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