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こどもの扁桃をとる手術 死亡率は?リスクは?

Dr.アシュア
こんにちは、Dr.アシュアです。扁桃腺炎を繰り返した結果、、やはり扁桃腺をとる手術を受ける事になった。無くはない話です。

そんな時、手術のリスク、気になるのではないでしょうか。

調べてみるとリスクは高くない手術のようですが…一つ気になることがありました。

 

扁桃腺炎に関する以前の投稿については、まとめページを作りました。興味のある方は以下をご覧ください。

CHECK
こどもの扁桃腺炎について~まとめ~

Dr.アシュア 今まで投稿したものを一覧でまとめてみました。 興味のあるものがあれば、是非ご覧ください。            

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手術の死亡率はどうか

リスクというと、単純に死亡率がどうか…という話が一般的かと思います。扁桃摘出術後の死亡率はいくつか報告があります。

 

2010年 アメリカの報告 ⇒死亡率0.006%(扁桃摘出術26221例中2例)

Shay S, et al Laryngoscope. 2015 Feb;125(2):457-61.

 

2007年 イギリスの報告 ⇒死亡率0.003%(扁桃摘出術33921例中1例)

Lowe D, et al Laryngoscope. 2007;117(4):717.

 

2008年 イスラエルの報告⇒死亡率0.008%(扁桃摘出術12000例中1例)

Cohen D, et al J Laryngol Otol. 2008;122(1):88.

総じて見てみても、扁桃摘出術の死亡率は、やはり低そうです。

 

扁桃摘出術の合併症の中で大事なものを2つピックアップ!

では扁桃摘出術の合併症を見ていきましょう。色々と合併症はありますが、今回は大事なものを2つピックアップしてみました。

呼吸器関連の合併症

扁桃摘出術はのどの手術なので、空気の通り道の手術と言えます。ですから、手術の後に空気の通り道が狭くなったり、むくんだりすることがあり、それにより呼吸器関連の合併症が起こります。

 

なぜ呼吸器関連の合併症が大事かというと、人の命を維持する上で大事なABCのうちのAとBの要素に当たるからです。

A:Air way(空気の通り道)

B:Breath(呼吸)

 

呼吸器関連の合併症と言っても、そのままだと分かりにくいので説明を追加しますが、

『酸素のモニターの数字が軽く下がること』 ~『 命を脅かす空気の通り道の閉塞(気道閉塞)』 まで幅があり、これらをまとめて呼吸器関連の合併症と呼んでいます。

 

睡眠時無呼吸症候群で扁桃腺をとる手術をする子供の場合は、より呼吸器の合併症が起こる可能性が高いです。

もともと空気の通り道の問題を抱えているわけですから、その状態で手術を受ければ合併症が多いということは当たり前ですよね。

 

その他、手術後に呼吸器の合併症を起こしやすい要素は何でしょうか 以下のような要因が指摘されています。

・太っている

・低年齢<3歳

・空気の通り道(咽頭・喉頭)に影響する奇形がある

・神経疾患(例えば脳性麻痺)←もともと呼吸器の奇形や機能が悪かったりするため

・気管支喘息をもっている

・最近風邪をひいた

 

術後の出血

術後の出血は、一次出血と言われる24時間以内にすぐ起こる出血と、術後5-10日に起こる二次出血に分かれます。

なぜ出血が大事な合併症かですが、これも人の命を維持する上で大事なABCの話に戻ります。出血はCの要素に当たります。

C:Circulation(血液の循環)

 

扁桃腺摘出術後の出血は、Uptodateから引用しますと一次出血は0.2〜2.2%二次出血は0.1〜3%であるとの記載がありました。

 

当院でも扁桃摘出術は稀ではなく行われていますが、私個人の経験では、術後に再出血して集中治療室に入ってしまった~というようなepisodeは記憶にありません。日本と海外の差もあるのかもしれませんが、検索した範囲内では日本のデータは見つけられませんでした。

 

出血は自然に止まることがほとんどですが、

もし止まらなければ手術室に戻って出血を止める必要がありますし、後日輸血が必要になることがあります。

 

6歳以上のお子さんで術後の出血が多い。

睡眠時無呼吸よりも慢性扁桃腺炎で扁桃摘出術を施行したお子さんの方が、より術後の出血が起こりやすい。

Windfuhr JP, et al Otolaryngol Head Neck Surg. 2009 Feb;140(2):191-6.

このような記載も見つけました。繰り返す扁桃腺炎で、扁桃腺摘出術を選ぶ際には要注意と言えますね。なお、何度も扁桃腺炎を起こしているとその場所が、硬くなる(医学用語では瘢痕化-はんこんか-と言います)ので、手術の際に出血しやすいのではないかという説があるようです。

 

扁桃摘出術・手術後に困る一般的なこと

手術の合併症の中では、呼吸器関連の合併症と出血が大事でした。

では、手術を無事に終えられたらそれで終わりでしょうか。イエイエ、手術後に起こる様々なトラブルがあります。

それについて触れないわけにはいかないですよね。

 

飲み込むときの痛み・耳の痛み

ものを飲み込むときの痛みが7-14日続きます。

Stewart DW, et al Paediatr Anaesth. 2012 Feb;22(2):136-43.

 

扁桃摘出術の後に耳の痛みが出てくることがある。

のどから発生する痛みで、時にのどの痛みよりもひどいことがある。

Le T,et al J Perianesth Nurs. 2007 Aug;22(4):256-64.

飲み込むときの痛み・耳の痛みには、一般的にはアセトアミノフェン、イブプロフェンといった解熱鎮痛薬を使用して対処します。

手術の大事な合併症に「出血」がありましたが、イブプロフェンの使用は、出血率の上昇と関連はしていません。

 

痛みの管理が難しい時は、オピオイド薬という医療麻薬が選択肢になることがあります。

しかし、この類の薬剤には一般的に「呼吸抑制」という呼吸をする機能を弱くする副作用があります。

扁桃摘出術の術後で、空気の通り道が少しむくんでいる状態で、さらに呼吸を弱くし得る薬剤を使用するとどうなるか…

当然ながら、空気の通り道がより狭くなり、無呼吸を引き起こすリスクが上昇します。

 

扁桃摘出術をうけた睡眠時無呼吸症候群の患者さん91人の鎮痛管理として、

アセトアミノフェン+モルヒネ群 と アセトアミノフェン+イブプロフェン群 において

術前・術後の酸素飽和度が低下する回数 を比較したランダム化比較試験

⇒やはりアセトアミノフェン+モルヒネ群が術後の酸素飽和度の低下の回数が有意に高かったと報告されています。

Kelly LE, et al Pediatrics. 2015 Feb;135(2):307-13.

この論文からも、扁桃摘出術後の痛みのコントロールとしてオピオイド薬はできるなら控えた方がよい印象を受けますね。

 

他に扁桃摘出術後の痛みの対処方法として、うがいや様々な口腔洗浄剤などが検討されていますが、今の所、医学的に根拠のあるものはなさそうです。

 

気持ち悪くなったり、嘔吐したりする

これは手術に対する麻酔の副作用で、一般的な副作用の一つです。

ただし、この副作用があるため、食事はゆっくり再開するようにアドバイスされることがあります。

 

一時的に口臭がきつくなる

扁桃腺摘出術後に口臭がきつくなりますが、これも良くみられる合併症です。

だいたい2週間くらいで自然に良くなり、特別な治療は必要ありません。

 

術後に出現する、不安や睡眠障害

子どもが扁桃摘出術を受けると、数日間は不安や睡眠障害(入眠の問題、睡眠中の問題、起床時に大泣きするなど)が起こることがあります。

Papakostas K, et al Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2003 Feb;67(2):127-32.

痛みによるものかもしれませんが、こういった症状と数日間は付き合う必要があるかも…という事実は知っておいても良いかもしれませんね。

 

まとめ

扁桃摘出術の手術による死亡率はかなり低いようです。

しかし、合併症の術後の出血に関しては海外の報告からは3%くらいと、これはそれなりの高い数字に思えます。

死亡率が低いので、合併症の出血が起こり実際治療が必要になったとしても、それが直接不幸な結果になっているわけではないと思いますが、少しこの数字は気になりました。

以上となります。

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