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乳児に対する抗菌薬投与は、1型糖尿病のリスクを上げるかもしれない

こんにちは、Dr.アシュアです。

抗菌薬は、最近では耐性菌の問題もあるので適正使用をしましょうという動きが加速しています。

適正使用というのは、「必要な人に必要な抗菌薬を処方する。必要がないひとには抗菌薬は出さないようにする」ということです。

学童の患者さんなどでは、本当に細菌感染症かの判断を病歴を聞いて、診察をして、検査結果を吟味して判断していくわけですが、

生後間もない月齢で急に高い熱が出た患者さんを診療するときは、我々小児科医は抗菌薬を使用するケースはそれなりに多いと思います。

なぜなら、月齢が若ければ若いほど免疫力も弱いですし予防接種も十分に進んでいないという背景がありますし、状態が悪くなるまでが早く、一旦悪くなってしまうとリカバーするのがとても大変という事情があるからです。

無論、生後2-3か月の赤ちゃんに対して、状態や検査結果を点数化して細菌感染症のリスクが高い・低いを判断するスコアがあったりするので、現実には、熱が出た赤ちゃん全員に抗菌薬を使用するわけではありませんが、それでも学童期のお子さんに比べて、本当は不要かもしれない抗菌薬の使用は多いと思います。

今回は、こういった月齢の若い患者さんに対する抗菌薬治療が将来的には悪さをするのではないか?という観点に立って研究された論文を紹介しようと思います。

さて主役に登場して頂きましょう。

Diabetes Care. 2020 May;43(5):991-999. PMID: 32132008

Early Childhood Antibiotic Treatment for Otitis Media and Other Respiratory Tract Infections Is Associated With Risk of Type 1 Diabetes: A Nationwide Register-Based Study With Sibling Analysis.

Mona-Lisa Wernroth, et al.

 

幼いお子さんの中耳炎や他の気道感染症に対して抗菌薬を使った場合に、1型糖尿病になるリスクが上がるかどうか、という論文です。

では見ていきましょう。

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背景と目的-Background and Objective

1型糖尿病とは、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が免疫の問題で出せなくなってしまい、病的な血糖値上昇を来たす病気です。現時点での医学の力では、インスリン注射なしでは生きていくことが出来ない病気です。

インスリン注射は今ではかなり改良されて痛みなどはかなり少なくなりましたが、注射が生きていくのに必要というのは、やはり大変です。

 

「1型糖尿病の発症に対して、生後早期に抗生物質治療をすることがリスクになるのではないか?」という問題について議論が行われていますが、結論は出ていません。

これは、生後間もない時期に抗菌薬を使うと、腸内細菌のバランスが乱れ、それにより免疫に影響が出た結果、1型糖尿病の発症のリスクが高まるのではないか?という仮説が提唱されているという背景があります。

今回の研究では、大規模な兄弟対照分析を含む10歳までの小児の登録ベースのデザインを用いて研究を計画し、この疑問に対する答えを出そうとしました。

 

方法-Method

2005年7月1日~2013年9月30日までの間にスウェーデンで生まれたすべての単胎児(n = 797,318人)が含まれ、2014年12月31日までモニターされました。親および周産期の特性を調整したCox比例ハザードモデルが適用され、兄弟によって共有された未測定の交絡因子を考慮するために層別モデルが使用され、解析されました。

スウェーデンは世界で最も高い1型糖尿病罹患率を誇り、抗生物質の処方率が比較的低い国の一つです。Medical Birth Registerという出生記録簿から出生したお子さんをピックアップしているわけですが、これにはスウェーデンの全分娩の96~99%が含まれているようで、おそらくほぼ全数のお子さんが把握されていそうです。

また、どのお子さんが1型糖尿病を発症したか判断するために、スウェーデンの処方薬登録簿と全国患者登録簿のデータを使用していました。

処方薬登録簿のデータでは、インスリン(ATC:A10A)の処方箋を少なくとも1つ持っていた場合、1型糖尿病と判断されました。スウェーデンでは医師の処方箋がなければ抗菌薬を市販で購入することはできないので、この方法でほとんど全ての1型糖尿病児が把握できそうです。

全国患者登録簿のデータは、ICD-10という国際的な疾病分類に基づいて登録された診断名を参照して、1型糖尿病児をピックアップしました。

 

抗菌薬の処方も、処方薬登録簿からデータ収集されました。どの感染症に対して処方したかについては、全処方のおよそ半分に処方理由に関するフリーテキスト情報というものが得られたらしく、それを著者らの内2人が別々に検証して、感染症の場所について検証していました。

 

結果-Results

約8年の間に出生した80万人ものお子さんのデータを追跡調査した結果、1,297人のお子さんで1型糖尿病が発症しました(追跡期間の中央値4.0年[範囲0-8.3])。ものすごいビッグデータですね。さあ、主な結果を示していきます。

 

結果①

生後1年目に処方された抗生物質は1型糖尿病リスクの増加と関連していた。調整後ハザード比[HR] 1.19 [95%CI 1.05-1.36])

帝王切開で分娩された小児ではより大きな効果が推定された。調整後ハザード比[HR] 1.60 [95%CI 1.22-2.08]

ハザード比は、アウトカムの発生率が非常に低い場合(1型糖尿病の発生率は低いです)は、リスク比と考えてよいので、生後1年目に抗菌薬投与を受けると、1型糖尿病のリスクが19%上がるという結果です。これはかなり大きい。。

 

結果②

この関連は、主に急性中耳炎および呼吸器感染症に使用される抗生物質への曝露によって駆動された。

急性中耳炎およびその他の呼吸器感染症の治療に使用される抗生物質への曝露は、全集団解析および兄弟姉妹解析のいずれにおいてもリスクの増加と関連していた。

急性中耳炎や呼吸器感染症(気管支炎や肺炎など)に対する抗菌薬の投与が、この関連性に寄与しているだろうという結果でした。

 

結論-Conclusions

著者らは結論を以下のように示しています。

結論

この大規模コホート研究では、生後 1 年目に処方された抗生物質は、10 歳までの 1 型糖尿病リスクの増加と関連していた。

兄弟姉妹が共有する測定不能な交絡因子を追加調整した後の推定値は、統計的には有意ではなかった。

観察された関連は、中耳炎やその他の呼吸器感染症に使用される抗生物質への曝露によって引き起こされているようで、この関連は兄弟間の解析においても統計的に有意であった。

 

交絡因子を追加調整すると、統計学的に有意ではなかったという事なので、今回観察されたリスクの増加については、本当の真実の差とは確実には言えませんよという事になりますね。

 

なにが分かったか

ココがポイント

生後 1 年目に処方された抗菌薬は、10 歳までの 1 型糖尿病リスクの増加と関連しているかもしれない、という結果でした。

さらに何人の子どもに抗菌薬を投与すると1型糖尿病が1例増えるかという数を計算してみたところ、この研究では1,475人と推定されていました。

ここがとても大事なところで、ハザード比として示すと20%弱リスクが増えるように見え、生後1年目に抗菌薬を使用することをためらうような結果に見えますが、何人に抗菌薬を出したら1例1型糖尿病が発生してしまうかという人数は「1,475人」という数字なわけです。

これはめったに起こらないだろうと考えられますよね。

著者らも、この数字を出したうえでリスクはかなり小さいということを明記しています。さらに、正しく使用された場合の抗生物質治療の有益性は、1型糖尿病のリスクを上回るだろうと、追加していました。

 

今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。

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