こんな症状、あなたならどうする?

子どもの新型コロナで川崎病に似た重症疾患が報告!?その真実とは?

こんにちは、Dr.アシュアです。

まだまだ落ち着かない新型コロナウイルス感染症。毎日飽きもせず東京の情報が報道されていて、医療者の僕ですら先が見えない閉塞感に嫌気がさします。

しかし、グタグタ言っていても仕方がありません。大流行に備えて、最新の情報を収集して備えておかねばなりません。

パンデミックのような社会不安が起こる時は、決まってデマや誤情報が出回ります。そんな時にもうろたえる事がないように、情報の質に注意して普段から情報収集しておくことは、自分の身を守ることにもつながるし、それが家族の安全につながると思います。

少し話がずれましたが、今回は「新型コロナウイルス感染症と川崎病の話」です。

5月頃に欧米で、新型コロナウイルス感染症にかかった子どもの一部分で、川崎病のような症状を認めている症例が発生している、しかもその症例は重症症例である、といったニュースが相次ぎ、それなりに小児科界隈はザワザワしていました。

医「え?実は川崎病のなかにコロナの患者さんがまぎれてたりするの??」

医「川崎病とコロナを鑑別しなきゃいけないの!?できるのか・・・」

 ※鑑別とは、患者さんの病気を診断する上で可能性のある病気を列挙して最終的な診断をしていくプロセスのことを言います

と言った声を実際聞きましたし、川崎病の患者さんのご家族から「実はあの病気ってことはありませんよね?」といった質問を受けることもありました(もはやコロナウイルスは、名前を言ってはいけないあの人(ヴォルデモートさん)みたいな扱いになっているのもアレですが)。

当初は真偽のほどは?という話もありましたし、そもそも大人の新型コロナウイルス感染症の受け入れ体勢を作るのに必死になっていた段階でしたから、周りもバタバタしていて色々情報の裏をとることができませんでした。最近色々な論文も出てきましたので一度まとめておこうと思い今回の投稿をすることとしました。

 

はじめに、話の大筋だけまとめておきました。言いたいことのコアの部分はここに書いたので、お忙しい方はこれだけ読んで頂くだけでもよいでしょう。情報のソースや詳細が気になる方は、是非最後までお付き合い頂けたら幸いです。

ココがポイント

 欧州、米国の論文を読んでみると、新型コロナウイルスのお子さん達の中に、少数だが炎症反応がかなり強くなり多臓器に症状が出る重症な病型になってしまう症例があるようです。確かに川崎病の診断を満たす症例が発生しているけれど、いわゆる川崎病とは病状がかなり違いそうで、欧州・米国はこれに特別の病名をつけて呼んでいます。

 この病気、欧州ではPIMS-TS、米国ではMIS-Cと呼称していますが、基本的には一緒の病気です。コロナウイルスによって引き起こされることが想定されている小児の多系統炎症性疾患という理解で良さそうで、川崎病と似ている部分はあるが、重症度が全然高いし、年齢や発症のタイミングなど病気の全体像は川崎病とはかなり異なっている印象があります。わざわざ病名をつけるあたり、欧州でも米国でも川崎病とは別の病気ととらえていると考えて良いでしょう。

 世界的には、そもそも小児のコロナウイルス患者が大人と比べてかなり少なく、その中でこの炎症性疾患はさらに少ないです。PIMS-TS/MIS-Cは、かなり重症とは言えリスクは低いという認識です。現状日本やアジア諸国ではこの炎症性疾患の症例が発生していないことを加味すれば、世のお父さん・お母さんは必要以上にこの病気を恐れる必要性はないと明確に思います。しかし、小児科医としては頭の隅に入れておいた方がよいという病気だろうと感じます。

お話の流れはこんな感じになります。長文なので分けて読んで頂いても良いかもしれません。

 

そもそも川崎病ってどんな病気?

新型コロナウイルス感染症と川崎病の話をする前に、川崎病について説明しておかねばなりません。

川崎病は、1967年に日本人医師の川崎富作博士によって発見された病気です。昔からある病気と思いきや、今でも多くの子どもが発症して治療を受けている病気で、小児科的には比較的見かけるメジャーな病気の一つです。2005年に年間の患者数が10,000人を超え、その後も患者数は増え続け、2018年には全国から年間17,364人の患者さんが報告されました。

病気の診断は比較的簡単で、主要な症状6個のうち5個を満たしたもの、というものが基本です。

幼児に多い病気で、2-4歳くらいの症例が典型的です。しかし典型的ではない川崎病の症例も存在しています。主要な症状を5個は満たさないけれど最終的には川崎病と診断される、といったケースも実臨床ではよくある話です。診断基準にも例外があって例えば”主要な症状6個のうち4個だけを満たしている場合でも川崎病の大事な合併症である「冠動脈瘤」を認めた場合は川崎病と診断する”というような感じで、いくつか細かなルールがあります。詳細については、話の本筋とズレるので、今回は割愛します。

川崎病の主要徴候

1. 発熱
2. 両側眼球結膜の充血
3. 口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
4. 発疹(BCG 接種痕の発赤を含む)
5. 四肢末端の変化:
  (急性期)手足の硬性浮腫、手掌足底または指趾先端の紅斑
  (回復期)指先からの膜様落屑
6. 急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹

川崎病の病状は、熱が出ていて、全身が赤くなるというようなイメージを持っていただければよいです。

治療方法は免疫グロブリンやステロイドなどで多くのお子さんは合併症なく治癒します。

そして、この病気を語る上で避けて通れないのは合併症の「冠動脈瘤」です。

冠動脈瘤は、心臓を栄養している主な血管にこぶができる合併症です。これが出来てしまうと、若くして急性心筋梗塞や不整脈のリスクを抱えることになりますし、普段から血液を固まりにくくする内服薬を服用しなければいけません。川崎病の治療はこの冠動脈瘤をいかに起こさせないかが全てと言っても過言ではありません。

 

本投稿を理解する上で大事なこととしては、

ポイント

・川崎病は4歳未満が80-85%と多い、幼児に多い病気であること

・冠動脈の拡張など、合併症を起こしうる病気であること

・川崎病では、消化器症状(下痢、嘔吐、腹痛)は、それほど見られない症状であること

・川崎病は特効薬があり治ることが多い。急性期の致命率は0.1%未満である

※消化器症状は診断基準の主要徴候には入っておらず「特異的ではないが川崎病で見られることがある所見」に記載があります

という点です。これだけ頭に入れて以下の内容を読んで頂ければ、より理解しやすいと思います。

 

当初の新型コロナウイルス感染症と川崎病関連の報道について

米国ニューヨークからのニュース

コロナ患者に川崎病類似の症状73件(5歳児死亡)「子どもの8つの症状に注意」とNY州

欧州フランスからのニュース

コロナ感染者の「川崎病」類似症例で仏9歳児死亡、同国初

上記のニュースにあるように、新型コロナウイルス感染症で米国や欧州から「重症症例が川崎病類似の症状を呈した」とする報告が5月頭に相次ぎました。

これらの地域では、日本とは比較にならないくらい新型コロナウイルス感染症が流行していましたよね。小児の重症例も数は少ないとはいえ発生しており、川崎病類似の症状を認めていた症例もいたという点が、我々の不安を大いにあおった…そんなニュースでした。

同時期、日本では欧米ほどは流行が拡大しておらず、欧米と比較すると小児例はさらに少なかったと思われます。実際ニュースを見聞きした私の周囲の小児科医たちも、前述のように「本当にそんなことがあるのだろうか」といった疑問の声が上がっていました。

最近、欧米から「新型コロナウイルス感染症の小児における重症例をまとめた論文」が発表されてきています。各国の保健機関(アメリカのCDCなど)も集まった知見をもとに、重症例に関する見解をHPなどで公開するようになってきました。

 

欧州、米国の論文から見る新型コロナウイルスと川崎病の関連の情報の正体

新型コロナウイルス感染症のパンデミック期間中の2020年3月~5月にかけて、イギリスの小児科医は、発熱と多臓器にわたる炎症所見を認めた小児の入院症例が発生していることに気づいていました。これらの子ども達の中には、ショックや多臓器不全を伴う重症で集中治療を必要とするケースもあり、川崎病や川崎病ショック症候群に類似した特徴を持つものも報告されました。

そこで、イギリスの国民保健サービス(National Health Service)が最初に警告を発し、Royal College of Paediatrics and Child Healthというイギリスの小児科医のための専門機関が、この重症な炎症性の病気に「PIMS-TS」という病名をつけ、その定義が公表されました。

 ※PIMS-TS:Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2の頭文字をとったもので、新型コロナウイルス感染症に一時的に合併する小児多系統炎症症候群、と訳せばよいでしょう。

PIMS-TSの定義が発表された後、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)が、各国で経験された新型コロナウイルス感染症に続く小児の重症例の経験から、各々病気の定義を発表しています。

米国ではPIMS-TSの病名は使用せず、わざわざMIS-Cと病名をつけて定義を公表しており、いかにも米国らしいといった所でしょうか。

 ※MIS-C:multisystem inflammatory syndrome in childrenの頭文字をとったもので、小児の多系統炎症症候群と訳せばよいでしょう。

 

PIMS-TSとMIS-C…これらの疾患の定義は、限られた数の症例に基づいて作成されたもので、実は中身が異なります。

詳しく書いてしまうと、かなり詳細に分け入った内容になるので割愛しますが、どちらの定義もコアの部分は共通していて

PIMS-TS/MIS-Cの定義のコアの部分

・熱が続いている

・重篤で入院が必要

・複数の臓器症状があり、炎症反応がある

・川崎病の診断を満たしたり、不全型川崎病だったりすることがある 

という所が概要です。

MIS-Cの定義では、「新型コロナウイルス感染症が検査で証明されること」という文言が見つけられます。

しかし、PIMS-TSの定義は、新型コロナウイルス感染症の診断はついていてもついていなくても構わないと。

・・・熱が出ていて重症で色々な臓器に症状が出ていて炎症反応がある??・・・すごーくぼんやりしていますよね?

病気を定義しているというよりは、ゆるく病気の形を定めて、広く症例報告を集めて、これからシッカリした病気の定義を作っていこうとしているような…そんな印象です。これでは、病気の全体像も分かりませんし、結局不安な気持ちになるだけです。

ということで、PIMS-TS、MIS-Cに関する最近の論文を読んでみて、自分なりにPIMS-TS/MIS-Cって何だろうと考えてみることにしました。

 

念のため論文からPIMS-TS、MIS-Cの定義を引用しておきます。興味のある方は供覧下さい。

 

欧州の小児コロナ重症疾患(PIMS-TS)に関する報告から

まずは欧州の小児コロナ重症疾患(PIMS-TS)についての報告を1つ供覧します。

JAMA. 2020 Jun 8;e2010369. PMID: 32511692

Clinical Characteristics of 58 Children With a Pediatric Inflammatory Multisystem Syndrome Temporally Associated With SARS-CoV-2

Elizabeth Whittaker,et al.

これは、2020年3月23日~5月16日までの間に、PIMS-TSの定義を満たし入院加療を受けた小児58人の情報をまとめた論文です。

症例はイギリスの8つの病院から報告されました。

新型コロナウイルスの検査での証明は必須ではなく、イギリス or CDC or WHOのPIMS-TSの定義を満たした小児を対象としています。

カルテレビューで情報を抽出し、2002 年-2019 年までに欧米の病院に入院した川崎病(KD)(1132人)、KD ショック症候群(45人)、毒素性ショック症候群(37人)の患者の臨床的特徴と比較し、PIMS-TSの特性について考察していました。

 

PIMS-TSと診断された小児は、年齢の中央値 9歳(5.7-14)、女児 22人(57%)でした。

Dr.アシュア
これは、一般的な川崎病を良く発症する年齢とはかなり違う!という印象があります。川崎病は4歳未満に多い病気でした。

新型コロナウイルスの検査での証明は必須ではありませんでしたが、45人/58人(78%)の患者が感染or感染歴が証明されました。

症状として、発熱・嘔吐(26/58人[45%])、腹痛(31/58人[53%])、下痢(30/58人[52%])、発疹(30/58人[52%])、結膜充血(26/58人[45%])を認めました。

Dr.アシュア
PIMS-TSは腹部症状が多いような印象を受けますね。川崎病では腹部症状はそれほどメジャーな症状ではありませんでした。

採血では、CRP(22.9 mg/L [IQR、15.6~33.8]、全例で評価)およびフェリチン(610 ng/mL [IQR、359~1280]、53/58例で評価)など、炎症反応の著しい上昇を認めました。

Dr.アシュア
論文内でも言及されていましたが、これはかなり強い炎症反応と言っていいでしょう。川崎病も炎症反応が強く出る病気ですが、CRP>20の症例はそれほど多くはないと思います。

 

このPIMS-TSの58人の小児患者は、3つのカテゴリーに分けることができたようです。(一部重複あり)

 ①軽症群:ショックやKDの特徴を伴わず、発熱と炎症所見を認めた群 23人

 ②川崎病群:米国心臓協会の川崎病の定義を満たした群 7人

 ③重症群:ショックに至り強心薬の投与と輸液蘇生を必要とした群 29人 

この58人の患者さんのうち、8人に冠動脈の拡張を認めました。しかも、①~③のすべてのグループで冠動脈の拡張を認めました。

さらに、冠動脈拡張を起こした8人と起こさなかった50人を比較したところ、臨床的症状や検査値の違いがみられませんでした。

Dr.アシュア
川崎病と診断されないグループでも冠動脈瘤が出来たとすると、PIMS-TSで起こる冠動脈瘤は、川崎病とは違う仕組みで起こっているのかもしれないですね。PIMS-TSと診断された時点で、冠動脈瘤のリスクがあるということが言えるかもしれません。

 

この論文を読むと、「PIMS-TSって怖ッ!」「やっぱり新型コロナ怖い!」というイメージを抱くと思うのですが、ここでヨーロッパのCDCであるECDCが、PIMS-TSに対してどう考えているか?ということに言及しておこうと思います。

ECDCはWHOのヨーロッパ版みたいな捉え方で良いと思います。病気の情報をがっつり収集して、欧州の人々の健康のために有用な方策を打ち立てていく機関という理解で良いと思います。

ECDC

こちらをクリックして読んで頂ければ、ECDCがどのようにPIMS-TSを捉えているか、が分かります。

重要な所だけ書きますと…

ECDCはPIMS-TSをどう捉えているか?

・PIMS-TSの疑い例は、EU/EEA諸国・英国で約230例報告されている

・PIMS-TSと新型コロナウイルスとの関連性は確立していないものの、もっともらしいという書き方

・新型コロナウイルス感染から2-4週でPIMS-TSが発症するタイムラグがある

・新型コロナウイルス感染症の症例のうち0-14yは2.1%と少なく、PIMS-TSの確率はさらに低い。PIMS-TSは重篤だが、総合的なリスクは小さい

というところでしょうか。

Dr.アシュア
PIMS-TSはタイムラグをもって発症するんですね。この点も、やはり川崎病とは異なると感じます。

欧州では、そもそも新型コロナウイルス感染症の小児例が少なく、その中でPIMS-TSはさらに少ないから、PIMS-TSは重症だけど総合的なリスクはかなり小さいですよ。という認識なんですね。

 

アメリカの小児コロナ重症疾患(MIS-C)に関する報告から

アメリカの小児コロナ重症疾患(MIS-C)については、どうでしょうか。

N Engl J Med. 2020 Jun 29; NEJMoa2021680. PMID: 32598831

Multisystem Inflammatory Syndrome in U.S. Children and Adolescents

Leora R Feldstein,et al.

米国全土の小児保健センターにおいて、2020年3月15日から5月20日までMIS-Cのサーベイランスを行った報告です。

26州から合計186人のMIS-Cの症例が報告されました。

年齢の中央値は8.3歳。患者の115人(62%)は男児、135人(73%)は生来健康でした。131人(70%)は新型コロナウイルス感染が検査で証明されていました。

Dr.アシュア
MIS-Cの患者さんもPIMS-TSの発症年齢とほぼ同じですね。やはり一般的な川崎病の発症年齢よりは高い印象です。

 

症状のカテゴリーは消化器系171例(92%)、循環器系149例(80%)、血液系142例(76%)、粘膜皮膚137例(74%)、呼吸器131例(70%)であった。

Dr.アシュア
これもPIMS-TSと似ていますね。MIS-Cの症例でも、消化器症状を示す確率が高そうです。

 

入院期間の中央値は7日(IQR 4~10日)

合計186人のうち、148例(80%)が集中治療を受け、37例(20%)が人工呼吸器管理を必要とし、90例(48%)が血管作動薬の投与を必要とし、4例(2%)が死亡した。冠動脈瘤(Z-score≧2.5)は15人(8%)の患者に認められた。川崎病様の特徴は74人(40%)に認められた。

 

もう一つ論文を供覧しましょう。

N Engl J Med. 2020 Jun 29;NEJMoa2021756. PMID: 32598830

Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in New York State

Elizabeth M Dufort, et al.

これは、ニューヨークからの報告で、新型コロナウイルス感染のピークの1か月前の報告です。

2020年3月1日~5月10日までの間にMIS-Cと診断された21歳未満の患者95人と、MIS-Cが疑われた患者4人をまとめたものです。

同じくアメリカからの報告なので、論文の概要は米国全土のサーベイランスの論文と似ているのですが、

21歳未満のSARS-CoV-2感染率は10万人あたり322人であり、MIS-Cは10万人あたり2人の割合で発生していたというデータが記載されていました。

Dr.アシュア
MIS-Cの発生率は、10万人に2人という報告でした。これはかなり稀な病気と言ってよいでしょう。

 

 

ここまで、新型コロナウイルス感染症の小児における重症炎症性疾患⇒PIMS-TSとMIS-Cについて、少数ですが論文を見てきましたが、おぼろげながら病気の姿が見えてきたような気がします。

はじめは、

・熱が続いている

・重篤で入院が必要

・複数の臓器症状があり、炎症反応がある

・川崎病の診断を満たしたり、不全型川崎病だったりすることがある 

というような曖昧なイメージでしたが、

PIMS-TS/MIS-Cとは

・小児のCOVID-19患者において関連が疑われている稀な炎症性疾患

・COVID-19感染から2週間くらいタイムラグをおいて起こることがある

・複数の臓器に症状を起こしうるが、消化器症状を比較的多く認め、心臓症状も多彩で特徴的。ショックに至ることも多い

・川崎病と比べると発症年齢は高く(8歳くらいが中央値)、炎症反応がかなり強いことが違いになるかもしれない

・川崎病の診断を満たすかどうかにかかわらず冠動脈瘤のリスクがある 川崎病とは違う病気と捉えられている印象

というような理解をしておけば良さそうです。

 

本邦や近隣諸国での新型コロナウイルス感染症と川崎病の関連性における認識

PIMS-TS、MIS-Cについて何となく理解できたでしょうか。

欧州・米国で少ないながらも報告されているこの症候群ですが、本邦や近隣諸国では現在どのような認識になっているのでしょうか。

J Korean Med Sci. 2020 Jun 8;35(22):e204. PMID: 32508068

Defining Association between COVID-19 and the Multisystem Inflammatory Syndrome in Children through the Pandemic

Yae Jean Kim, et al.

こちらは、新型コロナウイルスによるMIS-Cの韓国での状況を調査した論文です。

5月18日の時点で新型コロナウイルス陽性の11,065例中768例(6.9%)が20歳未満でしたが、川崎病様症状は報告されませんでした。

また、2施設での3か月(2月から4月)の川崎病患者入院率(対100新規入院数)は、2015年3.5、2016年3.2、2017年3.0、2018年2.9、2019年2.2、2020年2.6と増加はなかったと報告されています。

中国でも MIS-C に類似した疾患の報告は意外と少なく、新型コロナウイルスに感染して入院した小児のほとんどの報告では重症化していないことが報告されていました(PMID: 32220650)。

 

ご存知の方も多いと思いますが、日本川崎病学会では、ご存知のようにヒアリングや、韓国での調査の結果から、令和2年5月7日に「日本と近隣諸国では現在のところPIMS-TS、MIS-Cといった症例は報告されていない」と提言を発表しました。

 

しかし提言を出した20日後の5月27日にこのような報道がありました。

韓国、新型コロナ感染が疑われる初の小児重症例を調査

根拠となる論文は見つけられませんでした。まだ未発表なのか、本当は違ったのか…詳細を知りたいところです。

そして、このような報道はあったものの、2020年7月31日現在も日本川崎病学会のHPの記載を見る限り修正の記載はありません

 

今後、時間の経過とともに日本でも新型コロナウイルスの患者さんはどんどん増えていくでしょう。子どもの症例も当然増えてくることが予想されますし、重症例も出てくる可能性があるだろうと僕は思います。日本川崎病学会の提言をずっと信じているということは危険でしょう。状況は刻一刻と変化しているのですから。

 

それで、僕らはどうしたらいいのか

いくつか論文を供覧しながら書いてきましたが、それでは我々は一体どうしたらよいのか。ということについて自分の考えをまとめておこうと思います。

〇米国や欧州では、新型コロナウイルスに関連する、まれな炎症症候群(PIMS-TS、MIS-C)が発生している。

〇川崎病と似ていると報道はあったが、病気の様子は川崎病とは異なっているようだ。高年齢で炎症反応が強く、消化器症状が多い。冠動脈瘤のリスクも高い。

〇現在、日本ではそのような報告は見られないが、韓国で怪しい報告がある。

〇小児で新型コロナウイルスにかかり重症化するケースは、やはり少ないだろうが、注意しておく必要がある。

 

発症率のことを考えれば、世のお父さん・お母さんが、過剰に心配するような状況は今現時点ではない、と明確に思います。

とは言え、コロナウイルスの第二波が来ている!という世情ですから、いち小児科医で三次救急の最前線の一つの病院で働いている身としては、やはり頭の隅に、まれではあるもののこういった症候群があることを記憶しておくべきだと思います。

今回は以上となります。何かのお役に立てば幸いです。

 

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