こんな症状、あなたならどうする?

尿路感染症の後に腎臓に傷が残る場合があります!そのリスクファクターとは?

こんにちは、Dr.アシュアです。

最近、Twitterでこんなつぶやきをしました。

ちょっと関心が高そうだったので、「子どもの尿路感染症に関して、どんな要素を持っていると腎瘢痕を起こしやすいか?」をテーマに論文を探してみました。ちょっと古いですがJAMA Pediatricsに面白い文献を見つけたので、今回紹介したいと思います。

まずは主役に登場して頂きましょう。

JAMA Pediatr. 2014 Oct;168(10):893-900. PMID: 25089634

Identification of children and adolescents at risk for renal scarring after a first urinary tract infection: a meta-analysis with individual patient data.

Shaikh N, et al.

初めて尿路感染症に感染した後に腎瘢痕を起こすリスクに関して調べたメタアナリシスです。

テーマにばっちり合っている論文が見つけられて、ちょっと興奮ですwww

それでは、見ていきましょう。

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背景-Back ground

尿路感染症は、小児における最も一般的な重篤な細菌感染症である。約10%〜15%の症例で、尿路感染症は恒常的な腎臓の瘢痕化につながる。

Pediatrics. 2010;126(6):1084-1091.

冒頭のtweetでも書いたように、腎瘢痕(じんはんこん)は、尿路感染症などで腎臓に永続的な傷がついた状態です。報告では10-15%くらいに腎瘢痕が生じるというのは、結構驚きです。

著者らは、初回の尿路感染症にかかった小児において腎瘢痕が起こるか起こらないかと、臨床的な徴候、検査所見、画像検査の”何がどれくらい関連しているか”を体系的に調べた研究はない、という背景から、今回のメタアナリシスを行うこととしました。

 

目的-Objective

今回の研究は、目的が2つありました。

この論文の2つの目的

腎瘢痕の発症に関わる独立した因子を同定すること

それらの因子を臨床で有用な予測モデルに組み合わせること

1つ目は、背景でもあるようにメインのテーマです。さらに著者らは、腎瘢痕のリスク因子を明確にしたのち、臨床の現場で役立つような予測モデルを作ることを目標にしています、これがサブテーマです。

 

予測モデルとは、複数の項目でこれが当てはまっていれば何点、というように点数をつけて、総合得点が何点以上だと○○のリスクが高いと言ったように点数によって何らかのリスクの度合いを評価するものです。

もし、予測モデルを使って患者さんの腎瘢痕のリスクが高いor低いがある程度判別できるようならば、精密検査が必要な患者さんに精密検査を的確に行い、精密検査が不必要な患者さんに余計な検査をしない、という判断が出来るようになります。

優秀な予測モデルがあれば、患者さんの利益になるだけではなく、医療経済的にも大きな利点があります。

今回は、メインテーマの方が、世の親御さんたちに役立つと思うのでそちらをメインに解説していきます。

 

データソース-Database

MEDLINE(1950年から2011年9月27日まで)とEMBASE(1974年から2011年9月27日まで)を検索していました。

MEDLINE、EMBASEともに医学文献関係の有名なデータベースです。今回は、Cochrane CENTRAL Register of Controlled Trialsは検索されていません。

今回検索で最終的に残った研究の9件中3件がランダム化比較試験だったことを考えると、ランダム化比較試験を20年間以上集めたデータベースであるCENTRALは絶対に検索しておくべきだと思うのですが…。

どうしてCENTRALを検索にふくめなかったかは、記述がありませんでした。ちょっと残念な点です。

 

研究の選択-Study selection

少なくとも5か月後に腎瘢痕の検査を行った、初回の尿路感染症にかかった患者を扱った研究を前述のデータベースから探し出しています。

患者さんの年齢は、0-18歳となっていますが、2か月未満の児のみを含む研究は除外されています。これは、生まれたばかりで尿路感染症を起こす集団の場合、そもそもの尿路感染症の原因が異なった集団になるため研究の結果がゆがむ可能性があるからです。

腎瘢痕の検査としては、テクネチウムTc 99mシンチグラフィー検査をしたもの、と言うことになっていて、これは日本でも腎瘢痕の検査として一般的な検査でDMSAシンチグラフィーという検査です。

ちなみに尿路感染症の定義は、尿培養で細菌が生えたということ(当たり前ですが)になっていますが、

 ・恥骨上穿刺で採取した尿検体(一番きれいな採取の仕方、ただし侵襲性高い)で、なんらかの病原体が生えた

 ・カテーテル採取した尿からの10000コロニー形成単位/ mL以上

 ・キレイに排尿した尿検体orバック尿検体での100000コロニー形成単位/ mL以上

これらが、”尿培養で細菌が生えた”定義”になっていました。

 

データの抽出と合成-Data extraction and Syntyesis

まず検索によって1833件の論文が得られ、そのうちの23件が包含基準を満たしました。この作業は2人の著者が独立して行っていたようです。

しかしこの23件のうち、データを提供が叶ったのは9件の研究のみでした。

含まれている9つの研究のうち、6つの研究が観察研究で、3つの研究がランダム化比較試験でした。

ちょっといまいちな点なのですが、この9件の研究の質の評価(バイアスの評価)はなされていませんでした。これはマイナスポイントです。

評価対象の1479人の子供のうち、1,280人が腎瘢痕の検査(=テクネチウムTc 99mシンチグラフィー)後のデータを持っていたため、この1,280人のデータで最終的な分析が行われました。

 

主要評価項目と測定-Main Outcomes and Measures

最終的に評価したいのは、腎瘢痕の発生なのですが、腎臓の瘢痕化は、腎臓スキャンでの光源の減少があるかどうかで定義されていました。

また腎臓スキャンを行った時期を、尿路感染症発生から5ヵ月をカットオフとして選択していますが、その根拠は以下のように書かれていました。

尿路感染症にかかった後、少なくとも5ヵ月後に行われたスキャンで腎瘢痕を認めた症例の90%以上が永続的な腎瘢痕になる。

Pediatrics. 2010;126(6):1084-1091.

当科(腎臓専門医が複数名います)での診療でも腎臓スキャンの時期は、尿路感染症発症から半年くらいで行っているので、この辺りも臨床に即したカットオフになっていると感じました。

 

なお、サブテーマである腎瘢痕に対する予測モデルについて、3つのモデルを作成して評価していました。

モデル1:臨床所見(体温、尿培養で検出された病原体)と超音波所見

モデル2:モデル1+炎症性マーカーの血清レベル

モデル3:モデル2+排尿性膀胱尿路造影の所見

モデル1と2は、尿路感染症の初期診療で行う範囲の問診・診察・検査の結果で計算が可能なモデルですね。

そしてモデル3は、尿路感染症が落ち着いてから行う精密検査(=排尿時膀胱尿路造影)も含んでいますから、一通りの精密検査が終わったところで使うモデルになりますね。

 

結果-Results

1280人の初回の尿路感染症を起こした子ども・青年のうち、199人(15.5%)が腎臓の瘢痕を有していました。

冒頭の今回の論文の二つのテーマを再掲しつつ、見ていきましょう。

メインテーマ

腎瘢痕の発症に関わる独立した因子を同定すること

腎瘢痕の発生に関与していた因子を以下に示します。

腎瘢痕と関連していた因子

・39℃以上の発熱(OR 2.3, 95%信頼区間 1.6-3.3)

・尿路感染症の原因の菌が、大腸菌以外(OR 2.2, 95%CI 1.3-3.6)

・異常な超音波所見(OR 3.8, 95%信頼区間 2.6-5.5)

・多形核細胞数が60%を超える(OR 1.9, 95%信頼区間 1.3- 2.8)

・採血の炎症反応⇒CRPが4.0 mg/dL以上(OR 3.0, 95%信頼区間 2.0-4.6)

・膀胱尿管逆流の存在(Grade I or II [OR 1.8, 95%信頼区間 1.2-2.8]

           およびGrade IV or V  [OR 22.5, 95 %信頼区間 11.3-44.8]

これら全てが腎臓の瘢痕の発生に関連していた(P <0.01)

Grade IV or Vの膀胱尿管逆流の存在が腎瘢痕の最も強い予測因子でしたが、このレベルの逆流を認めたのは患者のわずか4.1%でした。

 

サブテーマ

それらの因子を臨床で有用な予測モデルに組み合わせること

上で示した3つのモデルのうち、3つの変数(体温、超音波所見、病原体)を有するモデル1の全体的な予測能力は、モデル2・3(血液採取および/または排尿膀胱尿道造影検査を必要とするモデル)よりわずか3%〜5%だけ低いだけでした。

モデル1の点数配分は以下の通りです。

モデル1の点数配分

・体温が39度以上 1点

・尿路感染症の原因菌が大腸菌ではない 1点

・腎臓の超音波検査が異常であった 2点

つまり全患者さんは、0点~4点の間に分類されることになります。

モデル1でスコア2以上(全体の21.7%の患者が該当しました)の患者は、腎瘢痕のリスクが30.7%の高リスク群でした。

全体での腎瘢痕の有病率が15.5%であることを考えると、2倍以上のリスクになりますね。

モデル1では、スコア2点で区切ることで腎臓瘢痕を持つ患者の44.9%が同定できました。

逆に50%以上は2点未満でも腎瘢痕を起こしているわけなので、このモデル1を基準にして、腎瘢痕の精密検査をやる/やらないは判断できないと感じました。

 

結論-Conclusions

論文の結論を示します。

39℃以上の発熱があること、尿感染症の原因菌が大腸菌ではないこと、腎臓の超音波検査が異常であること、これらの組み合わせをもつ尿路感染症にかかった子ども・青年は、腎瘢痕発生のリスクが高い。

 

それで結局何がわかったか

今回のメタアナリシスでは、検索が包括的でなかった点最終的にメタアナリシスに含めた論文のそもそもの質が評価されていない点に不満が残ります。しかし、腎瘢痕のリスク因子として挙げられていた下記の点については、一考の価値があると感じました。

・39℃以上の発熱(OR 2.3, 95%信頼区間 1.6-3.3)

・尿路感染症の原因の菌が、大腸菌以外(OR 2.2, 95%CI 1.3-3.6)

・異常な超音波所見(OR 3.8, 95%信頼区間 2.6-5.5)

・多形核細胞数が60%を超える(OR 1.9, 95%信頼区間 1.3- 2.8)

・採血の炎症反応⇒CRPが4.0 mg/dL以上(OR 3.0, 95%信頼区間 2.0-4.6)

・膀胱尿管逆流の存在(Grade I or II [OR 1.8, 95%信頼区間 1.2-2.8]

           およびGrade IV or V  [OR 22.5, 95 %信頼区間 11.3-44.8]

 

また、発熱と、原因菌と、腎臓超音波検査を合わせて作った予測モデルに関しては、まだまだ臨床で使うにはイマイチな印象を受けました。

今回は以上となります。参考になれば幸いです。

 

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