漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第13,14話を小児科医が解説! 痙攣とまってるのに検査いる?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第13・14話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1集も発売され好評のようです!

 

第12話では、引き続きタクシードライバーとして優秀なご主人「内村健二さん」、奥さんの「佳苗さん」、お子さんの「豊太くん」の3人家族のお話が語られていましたね。

子育てのことで喧嘩をしてしまう、旦那さんの健二さんと奥さんの佳苗さん。

旦那さんは「子どもは子どもらしく自然に派」、奥さんは「子どものころから学力つけて将来の選択の幅を広げてあげたい派」

お互いの気持ちも理解でき、どちらが正しいわけでもない…うーん辛い。

言い合いをしても結論はでないまま、旦那さんの健二さんが部屋へ戻ろうとすると、そこには目を開けてけいれんしている豊太くんの姿がっ!

 

豊太くん・・・第11話では車にひかれそうになってたし、第12話ではけいれんするし、受難続き…。

そろそろ豊太くんも元気になり、両親も仲良くなって幸せになってほしい所ですが、、、どうなってしまうのでしょうか。

それでは見ていきましょう!

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第13・14話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

 

タクシードライバーのご主人「内村健二さん」、奥さんの「佳苗さん」の喧嘩は結論がでないまま、健二さんは自室へ戻ろうとします。

すると、目を開けたままけいれんしている豊太くんの姿がっ!

両親はすぐに救急車を呼び、豊太くんは主人公の鈴懸真心先生が働く病院へ搬送されました。どうやら病院に着いたときにはけいれんは止まっていたようです。

真心先生は、豊太くんにやさしく声をかけるのと同時に診察と情報収集を始めます。

「熱がないけいれん」「2歳なのに母乳を飲んでいる」「アレルギーが怖くて魚と卵類をあげていない」という情報から…

真心先生の頭の中には、可能性のある数々の病気が駆け巡り、一つの可能性にたどり着きます。

 

・・・いくつかの検査を終え、豊太くんのけいれんの原因は"ビタミンD欠乏症による低カルシウム血症"であると診断されました。

豊太くんは入院が必要とのことです。

 

真心先生は、豊太くんのお母さんの佳苗さんに、ビタミンD欠乏症についてやさしく説明します。

佳苗さんは今までやってきた子育てが、ビタミンD欠乏症の一因になっていたことに気付き、愕然とします。

「私…あの子のためにやっていたことが、全部間違えていたんですね…」

 

入院しお腹がすいた豊太くんは、佳苗さんにおっぱいをせがみます。躊躇する佳苗さん。

そこへ、小児科部長であり主人公の父である鈴懸吾郎先生が訪問します。

実は建て替え前の病院では吾郎先生と一緒に働いていた佳苗さん、吾郎先生とは旧知の仲のよう。

佳苗さんは、吾郎先生に「自分の子育てが間違っていた」と呟きます。

吾郎先生は、「こんなものはミスとは言わない、気にしなさんな」と声をかけ、自分にも2人の息子がいること、家族を幸せにしたいと思い頑張ったが理想を押し付けてしまい失敗してしまった過去を告白し、励まします。

吾郎先生は言います「私には内村さんがうらやましい、喧嘩できるご家族がそばにいて。」

真心先生は、ちょうど豊太くんに「ビタミンDを沢山摂れる特別料理」をふるまおうと食事を病室前まで運んできた所で、偶然父親の話を聞いてしまうのでした。

 

翌日、検査を終え異常がなかった豊太くんは退院となりました。幸せを呼ぶ黄色いタクシーで迎えに来たお父さんの健二さんは、奥さんの佳苗さんとも仲直りでき、豊太くんと3人笑顔で帰っていきました。

 

…場面は変わり、飛行機の中。「コーヒーを下さい」と手を挙げる男性の手の中には、鈴懸吾郎先生からの手紙が握られていました。

どうやらこの男性、真心先生の兄”鈴懸英樹”先生のようです。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第13・14話より

・・・まず第13話、ひとまずちょっとお話の内容は置いておいて…

巻頭カラーですね!!おめでとうございま~す!!見開きズババーン!とプラタナスの実、主人公の鈴懸真心先生が映っている絵。いいですね~。

「大丈夫。未来はきっと、笑顔だ。」

キャッチフレーズも光ってます。我々小児科医、日々子ども達の未来のために働いてるので、この言葉グッときますね!

って、この絵の背景、室内にでかい電車が置いてある部屋・・・どこかで見たような・・・。

 

これ、多分「国立成育医療研究センター」の列車、セーフキッズトレイン、じゃないですかね。

先頭にクマっぽいオブジェもついているし、色的にも同一のものだと思います。

 

国立成育医療研究センターHPより引用

国立成育医療研究センターは、医療面でも研究面でも日本のトップオブトップの小児医療専門施設の一つで、僕も勉強会に行ったり、勉強会を主催させてもらったりでコロナ禍になる前は時々行っていました。でっかい電車のオブジェがある病院なんて、そうそうありませんもんねぇ。

東元先生、色んな病院に資料を取りに行ってるんだなぁ…。

 

第13・14話に戻りましょう。

やはりDr.アシュアが予想していた通り、豊太くんは”ビタミンD欠乏症による低カルシウム血症”でけいれんしてしまったんですね。

でも痙攣がしつこくなくてよかった!

けいれんは医療者は「停止した」とあんまり言いません。「頓挫(とんざ)した」と表現します。

僕もそう教わったのでそう表現するのが当たり前になっていますが、なぜかと考えると不思議です。これ、地域によっても表現が違ったりするんでしょうか。誰か知っていたら教えて欲しい!

 

お母さんの佳苗さん、いままで良かれと思ってやってきた子育てがビタミンD欠乏症の原因になってしまっていたことに気付き、相当ショックを受けていました。何もわからない豊太くんは、お腹がすいたと言っておっぱいを欲しがりますが、、、佳苗さん、そりゃあ泣きますわ。

でも、主人公の父・鈴懸吾郎先生が、自分の過去の話もしつつ励まし、主治医の鈴懸真心先生が用意したビタミンDを沢山とれそうな「キノコとシャケのちゃんちゃん焼き」に癒され、前を向けるようになりました。

この料理おいしそう~。カラーで見たい!

シャケのちゃんちゃん焼きは、秋から冬にかけてとれるサケと旬の野菜を蒸し焼きにして味噌で味付けした料理で、石狩地方の漁師町が発祥といわれている郷土料理とのことです。北海道だと良く食べる家庭料理なんですかね?

サイトの写真をみるに、いわゆるホイル焼きみたいな感じ!うまほ~!

真心先生が、料理をもって病室に入ろうとしたとき、父・吾郎先生が佳苗さんを励ましている話を偶然聞いてしまうのですが、真心先生はついに父・吾郎先生が昔のことを後悔していることを知り、父に対する態度が変わってきそうな展開ですね。

内村夫妻の仲が良くなるのと一緒に、真心先生と父・吾郎先生の間のわだかまりも徐々に溶けていきそうで良かった!

 

そして話の最後には、新しい登場人物の姿が!真心先生の兄、英樹先生の登場!

…イケメンです!

しかし、飛行機内の中で医者を探されていたときに「コーヒー下さい」とだけ笑顔で答えるあたり…くせがすごいんじゃ~って感じですね。

 

今回の記事では、鮮やかに豊太くんの病気「ビタミンD欠乏症」の診断をした真心先生の「診断をつけること」について少し掘り下げ、実臨床に即して、豊太くんの病気"ビタミンD欠乏性低カルシウム血症"について解説してみようと思います。

 

「診断をつけること」と「重症な疾患を除外すること」は同じく尊い

真心先生は、けいれんを起こした豊太くんを診察して、情報収集をしていました。

「熱がないけいれん」、そして「2歳なのに母乳を飲んでいる」「アレルギーが怖くて魚と卵類をあげていない」という看護師からの情報…

この時点で真心先生は、ほぼ間違いなくけいれんの原因は”ビタミンD欠乏症による低カルシウム血症”の可能性が高い、と思っていたと思います。しかし、真心先生、色んな検査をオーダーしてます、さらに点滴もして、頭部CTまでとっています。

これ、必要だと思いますか???ちょっと過剰検査じゃないですか???

 

 

 

 

 

 

Dr.アシュア的には、これら検査は必要だと思います。全く過剰ではないと思いました。

 

 

それはなぜでしょう。

まず、病歴的には「ビタミンD欠乏性の低カルシウム血症」が疑わしいのは分かりますが、熱がないけいれんの原因は、他にも沢山あることは前話の解説ブログでも書いた通りです。

その中には、見逃すと危険な病気も含まれていました。脳出血、脳腫瘍、低血糖などですね。

 

当たり前と言えば当たり前ですが、ビタミンD欠乏性の低カルシウム血症が「あった」としても、そのほかの熱がない痙攣の原因になる病気が「ない」とは言いきれませんよね。

ビタミンD欠乏性の低カルシウム血症の程度が実は軽くて、他に熱がないけいれんを起こすような疾患が隠れている…なんてことも、可能性としてはあるわけです。

 

実際の医療現場では、このように「病気をみつけて診断すること」と「それ以外の原因になりそうな重症疾患がないと証明すること」は同等に重要と考えられており、〇〇に違いない!と突っ走ることは逆に危険だと思います(それは、それ以外の可能性を見ない思考停止状態です)。

「それ以外の原因になりそうな重症疾患がない」ことが十分にわかれば、見つかった原因疾患の治療に安心して取り組めるという意味でも、非常に意味があります。

 

「病気を見つけて診断すること」は経験の浅い小児科医でも教科書通り行動すればよいだけなのでできますが、「それ以外の原因になりそうな重症疾患がないと証明すること」は、対応する小児科医の経験やセンスが非常に問われます。

なぜなら、しらみつぶしに血液検査・画像検査をすることは、お子さんに余計な苦痛を与えることにつながりますし、時間もかかってしまいます。もし子どもの状態が悪ければ、除外のための検査をするのに許される時間も制限があるので、その中でこれは除外しておかねばならんという緊急疾患に関する検査だけをチョイスして組み立てる…というようにタイムマネジメントの要素も入ってきます。

 

真心先生は、デキスター(=血糖値をチェックする機械)で低血糖の可能性を除外しつつ、頭部CTを撮影し出血・腫瘍についても目を光らせていましたね。一方脳波はとっていませんでしたが、これは今は意識が清明だから検査は後回しにしてよいだろうという判断だと思います。

非常に現実に即したリアルな感じ!

 

一つこれはいかん!と思ったのは、血算のふりがなが「ちざん」になっていたことくらいでしょうか(笑) これは「血算=けっさん」が正しい読み方ですね、誤植かなぁ。コミックスでは直るかなぁ。

 

豊太くんのけいれんは止まっていたのに、点滴をする意味はあるの?

救急車で到着した豊太くんのけいれんは、止まっていました。本人も目が覚めている様子でしたが、真心先生は「点滴」をすることにしたようです。これについてちょっと解説していこうと思います。

 

そもそも「点滴」ってなんでするんでしょうか。

「点滴」をする目的

・点滴がないと投与できない薬が必要、輸血が必要

・薬を素早く投与する道筋を確保したい

・必要な栄養が口からとれないので、血管の中に水分、塩分、糖分を直接入れたい

だいたいこんな所が思いつきます。

 

そこで、今回豊太くんのケースをDr.アシュアが診療していたら点滴をするかどうか…考えてみると、やっぱり自分も点滴はすると思いました。

その理由は、

・はじめての無熱けいれんだから

・病歴から、けいれんの原因が低カルシウム血症が疑われるから

の2点でからですかね。説明していきましょう。

 

まず、そもそも無熱けいれんは前話の解説の時にも書いたように、可能性のある原因がたくさん思いつきます。

はじめての無熱けいれんだと、可能性のあるものを除外したり診断したりする目的で、採血は少なくともします。点滴をするときに同時に血液が採れるので、採血するなら点滴もしてしまえ!という考え方もあります。

さらに、原因が判明していない段階だと、今はけいれんが止まっていても、またけいれんが始まる可能性があるので「けいれんを止める薬の通り道として点滴を確保しておきたい」という気持ちも生まれます。

 

そして、今回は看護師さんが集めた情報からけいれんの原因が低カルシウム血症が疑われますね。

けいれんするくらいカルシウムが低下している場合には、口から薬を飲ませてカルシウムを上昇させるのは時間がかかるので、点滴でダイレクトに血液の中にカルシウムを投与する必要があります。そのため、点滴を確保することは今回の豊太くんのケースでは必須、と言っても過言ではないと思いました。

次は、そのビタミンD欠乏性低カルシウム血症の実際の臨床に即した治療について書いていきます。

 

痙攣するほどカルシウムが下がっているビタミンD欠乏症のお子さんの入院期間について

今回豊太くんは、病院に搬送されたときにはけいれんが止まっていて、色々検査をして翌日には退院できていますが…

実際の臨床現場では、ビタミンD欠乏症でけいれんするほどカルシウムが低下していたなら、流石に翌日退院はキビシイと思います

そもそもビタミンD欠乏症で確定診断のために必要な検査は、あんまり行う検査ではないので院内で検査ができず外部の検査会社に委託することが一般の小児科だとほとんどです。それだと検査の結果が到着するだけで最低でも4-5日かかります。

主人公の真心先生の働く、北広島市総合医療センターは小児医療センターがあり専門施設と考えると、院内で確定診断のための検査が出せるのかもしれませんが…。

入院期間はいくら短く見積もっても1-2週間くらいは必要じゃないかなぁと思います。

日本での症例報告を2本ほど見てみましたが、やはり入院期間は約2週間くらいでした。小児科臨床 65(8): 1860-1864, 2012.、函館医学誌 30(1): 40-43, 2006.

 

治療の方針としては、まずビタミンD欠乏症でけいれんするほどカルシウムが低下している場合は、点滴からカルシウム製剤をゆっくり静脈注射して、血清カルシウムを危険域から早く上げる必要があります。これは数時間で達成すべき目標ですが、血清カルシウムは低すぎても上がりすぎても危険な不整脈を起こしうるため、慎重に急ぐ必要があります。

そして同時にビタミンD製剤の内服、カルシウム製剤の内服を十分量で開始します。さらに、ここが一番大事なのですが、ビタミンD欠乏症になってしまった背景を調べて、再発しないように修正する必要があります

マンガの中でもあったようにお母さんに栄養指導をしたり、日照時間の情報提供をしたりですね。

食事に関しては子どもは大人ほど言った通りには動いてくれませんから、食事の偏りがある状態で育ってきたお子さんだと、今まで食べたことがあんまりないキノコや魚料理を、病気を治すために頑張って食べよう!!というようにはスグには変えられないことも多いです。一生懸命食事を用意してみても、今まで食べたことがないから食べない!なんていうこともシバシバ。

そして、点滴がある状態では退院できませんから、内服治療だけでカルシウムが安定してくれるかどうかを、時々採血しながら確認しないといけません。入院してすぐはおそらく数時間おきに採血が必要でしょうし、点滴からカルシウム製剤をドシドシ入れている間は個人的にはICUで見てもいいかなぁと思います。

 

最後に 主人公の兄、鈴懸英樹先生が登場!

第14話の最後に、主人公の兄「英樹」先生が姿を現しましたね~。

たしか父親と一緒の”小児外科医”でインドかどこかで働いていたような…。父・吾郎先生が手紙を出したけど音信不通という話がでてましたけど、ちゃんと届いていたようです。手紙をきっかけに帰国したっぽいですが、もしかして一緒に働く心づもりなんでしょうか。

主人公の鈴懸真心先生の、ぱっつん前髪、怪しげなロンゲの見た目と違って、さわやかな短髪でイケメン!(笑)

ですが、飛行機内での立ち振る舞いが気にかかりますね・・・。

 

真心先生と、父・吾郎先生の確執がだんだん解消されてきた所で、これは新しいトラブルの臭いがします・・。プラタナスの実、次回も楽しみですね!今回は以上となります。

ビタミンD欠乏症に関しては、東京大学でのデータからは2009 〜 2014年の5年間だけでもおよそ3倍に増加しているようです。日本小児科医会会報 (50): 132-134, 2015.

過度な紫外線対策、不適切な食事制限が現代のビタミンD欠乏症の背景となっている様です。皆さんもお気を付けください。

 

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

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