漫画「プラタナスの実」考察・解説

「プラタナスの実」第20話を小児科医が解説! 外で会った傷病者に医師は声をかける?

こんにちは、Dr.アシュアです。

今回は2020/10/5から週刊スピリッツで連載されているマンガ「プラタナスの実」の第20話を、現役小児科医が考察・解説してみたいと思います。

「プラタナスの実」はドラマ化もされ人気を博した「テセウスの船」の原作者、東元俊哉先生の新連載の漫画で、小児科医療をテーマとして描かれている漫画です。

漫画の情報については公式HPをご覧ください。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」

原作者の東元先生にも企画についてご許可頂いておりまして「プラタナスの実 考察・解説ブログ~非公式だけど公認~」ということで、がんばって考察・解説していきます。

第1~2集も発売され好評のようです!

 

前回は、主人公鈴懸真心先生の兄、鈴懸英樹先生が北広島市総合医療センター小児医療センターで働くことになりました。

英樹先生は、北広島市に到着した時に駅で足をひきずる5歳の女児「莉乃ちゃん」を見かけていたのですが、なんとこの莉乃ちゃんが北広島市総合医療センターの小児外科外来に来院し、話が動き出した所でした。

莉乃ちゃんは果たして何の病気なのか、、、。前回予測していたもやもや病だとしたら、小児脳神経外科医がいない北広島市総合医療センターでは最終的な治療はできないでしょうし、どうなるのでしょうか。ちょっと心配ですね。

それでは、見ていきましょう。

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第20話のあらすじとDr.アシュア的に気になったことについて

 

右足をひきずるようになってしまった莉乃ちゃんは、鎮静薬なしでMRIを受けることになりました。

恐怖でドキドキする莉乃ちゃんは、おばあちゃんに買ってもらった鍵盤ハーモニカのことを思い浮かべ、なんとか検査を終えることが出来たのでした。

そしてMRI・MRAの結果は…真心先生、英樹先生が危惧していたとおり、脳血管の病気「もやもや病」でした。

莉乃ちゃんの祖母は、外来で小児外科医の八柳先生、鈴懸英樹先生から、もやもや病のため脳虚血が起こり足の症状が出現したことを聞き悲嘆の表情を浮かべます。

もやもや病の脳虚血の症状は、過呼吸を起こすような行動で症状が出現すること、そして鍵盤ハーモニカをふくことも過呼吸を起こすという事実に、ひどくショックを受けてしまいます。

祖母の強いショックに動揺する八柳先生ですが、冷静に北広島市総合医療センターには小児脳神経外科医がおらず、手稲の病院にうつり治療をすることについて話し始めます。

しかし祖母の動揺は収まらず、八柳先生の話はうまく入りません。祖母は涙を流し「莉乃はどうなってしまうのか、ここでは治療は受けられないのか、他の病院に移る時間的な余裕はないのか、治療の内容は何なのか・・・」と取り乱してしまいます。

鈴懸英樹先生は、そんな祖母の話をなんと途中で遮り、「これ以上のことはここではできません。我々は小児外科医で専門外なので、まずは転院してそちらの医師の判断に任せることになります。申し訳ないが、こういった時間が無駄になるので準備をお願いします」と淡々と説明するのでした。

 

病状説明でのそんな英樹先生の様子を聞いた真心先生は、英樹先生とエレベーターで一緒になった時に彼を問いただします。

「駅で彼女を見かけた時、どうして声をかけなかった。莉乃ちゃんを見かけた時に小児脳神経外科医が必要だとわかっていただろう。その時点で救急車を呼ぶことができたはずだ」と。

英樹先生は答えます。

「それは俺の仕事じゃない。駅の時点で患者は病院にいくつもりだった。検査もしないでそんな判断は下せない。そしてリスクは負わない」

真心先生は「小さい子どもとおばあちゃんがあちこち振り回されて…。どれだけ不安か想像してみろ!」と憤慨するのでした。

東元俊哉「プラタナスの実~小児科医療チャンネル~」第20話より

やはり莉乃ちゃんの病気はもやもや病でしたね。そして北広島市総合医療センターでは治療ができないというのも予想どおりでした。

兄・英樹先生は、対応が無駄がないですがちょっと冷たいですねぇ。そしてリスクは負わないスタンスと明言!

そのスタンスにさっそく主人公の真心先生が噛みつきましたね。これも前話からピリピリモードの真心先生から予想通りでした(笑)。

そして当の兄・英樹先生ですが、知ったことかという体で全く動じていません。鉄のメンタル。。

さらに怒っている真心先生に「学ラン来ていた頃と一緒だな」とカウンターの一撃!

真心先生、完全に兄・英樹先生とバトってますが、、なんだか英樹先生の言い分も分かる部分があります…。

 

今回は、真心先生が英樹先生に食って掛かったところを取り上げて、それぞれの主張を整理してみようと思います。

すごく簡単に今回の争点をまとめると…

「道端で出会った傷病者に、医師は声をかけるべきか」

という感じになるでしょうか。真心先生は「声をかける派」英樹先生は「声をかけない派」になり、お互いの主張がありそうです。

それらをまとめて、Dr.アシュア的にどちらを支持するか書いてみたいと思います。

 

起こった出来事と、真心先生・英樹先生のそれぞれの主張を整理

まずどんな出来事に対して、真心先生と英樹先生がもめたのかを整理しましょう。

どんな問題に対して2人がもめた?

駅で偶然「足をひきずる症状で困っている5歳の女の子(莉乃ちゃん)とその祖母」を見かけたとき、医師として声をかけるか?

前提として「祖母は孫を市立病院に連れていこうとしていることが分かっている」というのも、ポイントですね。

 

次に、主人公の兄・鈴懸英樹先生の行動とその理由をまとめましょう。

 

兄・鈴懸英樹先生の行動とその理由

英樹先生は、駅で莉乃ちゃんと祖母を見かけたが「ひとまず無視」した。

その理由は

・5歳の女の子と祖母は病院に行こうとしていた

・検査ができない状況で、重大な決断はできない

・声をかけて救急車を呼んだりするのは、自分の仕事ではない

・リスクは負わない主義だから

その結果、北広島市総合医療センターに受診した莉乃ちゃんは、もやもや病と診断することはできたものの、小児脳神経外科医がおらず治療ができないために、他院に転院することとなりました。治療という意味では一歩で遅れた形になったわけですね。

英樹先生の主張としては「患者が無事に助かればそれでいい話」ということでしたが、もやもや病で大きな脳梗塞が出来て、足の麻痺が残ってしまったら・・・?それは無事に助かったと言うことになるのでしょうか。

 

最後に、主人公・鈴懸真心先生の(とったかもしれない)行動とその理由をまとめましょう。

真心先生の(とったかもしれない)行動とその理由

真心先生は、莉乃ちゃんと祖母を駅で見かけた時点で「声をかけて救急車を呼んだだろう」と主張。

その理由としては

・駅で出会った時点で、問診・診察のみで、もやもや病の可能性に気が付けた

・そうすれば小児脳神経外科医がいる手稲の病院にそこから救急車で最短で迎えた

・そうすれば北広島市総合医療センター→転院の二度手間を防げた

兄・英樹先生のとった行動によって、莉乃ちゃんは結局他院に転院になる結果となったため、莉乃ちゃん・祖母に余計な心配・心労をかけたのではないか?それは事前に回避できたのではないか?

というのが真心先生が英樹先生に抗議した理由でした。

 

道端で出会った傷病者に医師は声をかけるべきか 英樹先生の行動は是か非か

英樹先生のとった行動、真心先生のとった行動、どちらが正しいのか…。これは相当難しい・・・。

今回のケースだと、正直言うと、英樹先生の行動の方が良くあるんじゃないかなぁ、というのが僕の考えです。

 

まず莉乃ちゃんの状況ですが、目の前で倒れたわけではなかったです。

明らかにひどくびっこをひくように歩いている小さな女の子と、おばあちゃんがいて、急病の様子でおばあちゃんがオロオロしている…みたいな状況であればDr.アシュアも声をかけると思いますが、これは程度問題です

現実では、ちょっと足をくじいた程度という可能性の方が圧倒的に高いわけですし、もし声をかけて「この子は生まれつき足が悪くて…」なんて言われた時には(あ・・・なんか、、ごめんなさいっ!!)って赤面してしまいます。

Dr.アシュアが同じ状況に遭遇したら…声をかけるか…かなり迷うと思いますね。。。

さすがに目の前で倒れて足が動きません、みたいな子どもがいたら自分も声を掛けますけど、今回のケースなら声はかけない可能性が高いと思いました。

 

1年前くらいに、大きな公園に家族で出かけたときの実話ですが、他のご家庭の2歳くらいのお子さんがベビーカーに乗っている状態から階段から転げ落ちたところにちょうど居合わせたことがありました。その時は駆け寄って「小児科医なんですけど、お子さんのケガ見ましょうか?」と声をかけたことがありました。

その時はとっさに体が動いた感じで…ぶつけた部位の確認と、出血が続いていないかの確認と、簡単に骨折していないかを見て、救急車を呼ぶ必要はなさそうと判断し両親に伝えた上で「今は大丈夫そうだけど、心配なら病院に受診してくださいね。コレコレこういう時はすぐに救急車呼びましょうね」というアドバイスをして、その場を去りました。

でも正直、帰宅後に色々思い悩んだんですよね。

(あの子大丈夫だったかなぁ…。もし頭の中で出血とかなっていたら…救急車を呼ばなくてよさそうってコメントしたことって、後で問題になったりするのかな・・・?付き添って病院に連れていくまでやるのが関わった責任だったりするのかな…。病院を受診した方がよいとアドバイスしたほうが良かったかな…)

と、こんなことをモンモンと考えて、夜中々寝付けなかったことを覚えています。

これが英樹先生が言うところの「リスクを負う」ということになるのでしょう

関わったら、関わった責任が発生するよねって話ですね。

でも正直、病院の外で医者ができることって実はかなり少ないので、こういうケースの場合「大丈夫」と判断するよりも「ひとまず病院に行った方がよいですよ」と判断したほうが、正しいのだと思います。その方が自分が変なリスクを抱えずに済みますよね。

 

話をマンガの内容に戻しますが、英樹先生の行動を評する上でもう一つとても大事なことがあります。

それは英樹先生が北海道の医療事情に明るいか否かということです。

医療事情に明るい、というのは具体的には「この病気はA病院が得意、この病気の重さならB病院の〇〇先生がいるところじゃないと難しいよな~」といったことが分かっているか、ということです。

こういった医療事情は、医師をする上では実はかなり大事なことです。

莉乃ちゃんのエピソードでわかるように、自分の病院で治療できない患者さんを自分の病院で受け入れることは、治療が遅れたりすることにもつながるので避けた方が良い場合もあります。自分の病院で小児医療のどこまでをカバーできて、どこからはカバーできないというのを知っているのは、患者さんの利益に直結するんですね。医者の力量って、知識や腕だけじゃなくて、そういった状況判断も含まれると思います。

 

それで、英樹先生は北海道の医療事情に明るかったのでしょうか?・・・答えはNOだと思います。

その理由としては、英樹先生は海外から帰ってきたばかりだということと、父・吾郎先生が英樹先生と全く連絡が取れていなかったことから推察すると英樹先生は北海道にはほとんど帰ってきてないだろうと予想できるからです。

海外に出る前に北海道でしばらく働いていたならば少しは医療事情を知っている可能性はありますが、それでも数年日本から離れているような状況では、「今の」医療事情に明るいとは言えないでしょう。

 

そういった背景を考えると、英樹先生の判断としては理解がおける部分があります。

出会った少女はぱっと見は急病ではなさそうで、しかも祖母と一緒に病院に受診する予定で動いていることも分かっている。久々に北海道に戻ってきた自分には周辺の医療事情は良く分からない。

そういった状況で英樹先生としては、あえて声をかけることは患者さんにとっても自分にとってもリスクになる、と判断したのではないでしょうか。

これは、わからんでもないよねと思うわけです。

 

真心先生からイチャモンつけられた時も、「たとえ"もやもや病"かもしれないとその場で疑ったとしても、どこに小児脳神経外科医がいるのか分からない状況だったら、ひとまず北広島市総合医療センターを受診させるしかないだろう」と説明すればいいのに…という所ですが、そこはプライドが許さなかったのでしょうかね。

 

真心先生が英樹先生にイチャモンをつけたのは何故か?

Dr.アシュアとしては「英樹先生が北海道の医療事情の知識が少ないこと」を真心先生が想像できないはずはない、と思います

だから「(莉乃ちゃんと祖母を見かけた時に)声をかけて救急車を呼ぶべきだった」と英樹先生を非難する真心先生のセリフには、少し行間があるような気がするんですよね。

つまり・・・

真心先生「声をかけて救急車を呼ぶべきだった。(兄ちゃんは北海道の医療事情が分からないからできないと思うけど。俺ならできた。)」

というような()の気持ちがあるような感じがします。普段の真心先生らしくない、ちょっと子供っぽいからみ…。

真心先生は、趣味はYou Tuberで前髪パッツンだったりと一見変人ですが、小児医療にはとても真摯で魅力的な医師です。しかし、どうも家族のことになると意固地になってしまう傾向がありますよね。父・吾郎先生との関係では、昔、真心先生が母を亡くしたときのことがシコリとなって残っているようで、未だに2人の関係性はギクシャクしています。

そういったことを考えてみると、今回の真心先生の英樹先生へのイチャモン問題も、「真心先生と英樹先生の過去の遺恨」が根底に原因としてあるのでは?と想像してしまいます。

実際、英樹先生も真心先生に対して「学ラン来てた時と変わっていない」と昔の話を引き合いに出しているので、やはり昔、兄弟間で何かあったんだろうなぁと考えてしまいますね。

きっと、その辺りもまた語られることになるのでしょう。

 

最後に 

今回は、ストーリー解説+主人公 真心先生 vs 兄・英樹先生「道端で出会った傷病者に、医師として声をかけるか否か」について考察してみました。

真心先生、父・吾郎先生とのわだかまりが解けそうな感じだったのに、今度は兄・英樹先生と喧嘩勃発ですか(兄・英樹先生には一蹴されていいて喧嘩という感じではないのかもしれませんが)・・・。

兄弟喧嘩の行方も気になりますが、もやもや病の莉乃ちゃんと、失意のどん底の祖母の今後も、個人的にはとても気になります。

ゴールデンウィークで間が空いていて、かつ休載も入っており、プラタナスの実の次のお話が読めるのはもう少し後になりそうです。東元先生もゆっくり休んで、英気を養ってくれていることを願っています!

 

追記

2021年1月29日にプラタナスの実 1巻・2巻が発売になりました。小児科医療のリアルな現場を切り取った漫画だと思います。

色々な方が手に取って頂けたら嬉しいですね。

-漫画「プラタナスの実」考察・解説

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