こんな症状、あなたならどうする?

ヘルメットはどれくらい自転車に乗る人の頭部外傷を予防できるの?

こんにちは、Dr.アシュアです。

僕の働いている病院の小児科は、3次医療機関です。言い換えると、重症なお子さんを受け入れている病院です。

大人の救急も受け入れているため、”外傷”で入院してくる患者さんもいるのですが・・・僕が一番悲しい気持ちになるケースがあります。

それは・・”お子さんを自転車に乗せている状態で転倒したり、車と接触したりして起こす事故”です。

お子さんがヘルメットをかぶっていなかったりした場合には、目も当てられません。

頭蓋骨骨折や頭蓋内出血など、重症な脳障害に至ってしまうこともあります。

一緒に転倒したお母さんも大きな怪我をすることになりますし、そもそも自分が乗せていた自転車で子供が大怪我をすることになった事実を考えると…本当に胸が痛みます。

以前自転車事故に関する投稿もしましたが、事故って怖いです。

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やはりヘルメットが大事!!という話になるのでしょうけれど、一体ヘルメットってどのくらいの効果があるんでしょうか。

今回は、そんな疑問に応えるべくシステマティックレビューを行った論文を見つけましたので、ご紹介しようと思います。

 

さて、まずは主役に登場してもらわねばなりません。

Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD001855. PMID: 10796827

Helmets for preventing head and facial injuries in bicyclists.

Thompson DC, et al.

 

ちょっと古い論文ですが、文献検索が2006年にもう一度追加され、改訂されたようです。

大事なtake home messageがある論文でした。さあ、見ていきましょう。

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背景と目的-Background and Objective

毎年米国では、自転車の衝突により約900人が死亡し、50万人を超える人が救急部門で治療を受けています。

頭部外傷は自転車における最大のリスクと言えますが、救急外来における“頭部外傷”は、救急外来受診の3分の1、入院の3分の2、および死亡の4分の3を占めるものです。

自転車を運転している人のへの顔面のけがは、頭部のけがとほぼ同じ割合で発生します。

こういった背景から、著者らは『自転車用ヘルメットが全年齢の自転車運転者の頭部・脳および顔面の損傷をどの程度減らすのか』を評価するために、今回のレビューを行いました。

 

方法-Method

データベース

CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、Sport、ERIC、NTIS、Expanded Academic Index、CINAHL、PsycINFO、Occupational Safety and Health、Dissertations Abstracts が検索されました。

過去のレビューとレビューに引用された文献の参考文献、および米国、欧州、オーストラリアの政府機関による研究も検索されています。

国際小児青年期外傷予防協会、世界外傷ネットワーク、CDC資金による外傷管理および研究センターの職員、そして世界中の外傷研究機関のスタッフと連絡を取り情報収集をしたようです。

なお、論文は2000年に一度発表されていますが、2006年11月に検索をもう一度行ったようです。

 

選択基準

レビューに含まれる研究の適格基準は以下のようなものでした。

適格基準はこれ!

・対象が事故を経験したことのある自転車運転者の集団であること

・ヘルメット使用の影響を評価した比較グループを用いた研究であること

さらに著者らは、完全な結果の確認、正確な曝露測定、比較グループの適切な選択、そして選択バイアス、観察バイアス、交絡などの要因の排除または管理がなされていることを研究に要求しました。

 

データ収集と分析

2名の研究者が独自にデータを抽出しました。

頭部・顔面の外傷に対するヘルメットの保護効果について、95%信頼区間のオッズ比を計算しました。

頭部と脳の損傷に対するヘルメットの保護効果についても、メタアナリシスが行われました。

 

結果-Results

ランダム化比較試験は見つかりませんでしたが、5件のケース・コントロール研究(症例対照研究)が選択基準を満たしていました。

以下に結果を示していきます。

結果①

ヘルメットは、自転車に乗っている全年齢の人に対して、頭部・脳損傷および重度の脳損傷の危険性を63-88%減少させた。

・頭部外傷の危険度

 OR 0.31 (95% CI 0.26 to 0.37, 4件の研究から計算)

・脳損傷に対する保護効果

 OR 0.31(95%CI 0.23〜0.42, 3件の研究から計算)

・重度の脳損傷に対する保護効果

 OR 0.26 (95% CI 0.14 to 0.48, 1件の研究=Thompson 1996.から)

結果②

自動車との衝突事故に関与した自転車乗車者に対するヘルメット使用者vs非使用者で比較した保護効果は、ヘルメット使用者の方が69%のリスクの減少を認めた。

 OR 0.31 (95% CI 0.20 to 0.48)

結果③

他のすべての原因による事故に対する自転車乗車者のヘルメット使用者の保護効果は、68%のリスクの減少を認めた。

 OR 0.32 (95% CI 0.20 to 0.39)

結果④

ヘルメットの有効性に関する最大の症例対照研究では、著者らは顔面を3つの領域に分けて評価した。

ヘルメットの使用により顔面上部および中部の外傷が65%減少した。

 upper face: adjusted OR 0.36 (95% CI 0.26 to 0.49)

 middle face: adjusted OR 0.35 (95% CI 0.24 to 0.50)

 

結論-Conclusions

ヘルメットは、全年齢の自転車乗車者が、自転車関連の頭部および顔面のけがをするリスクを大幅に下げることが分かりました。

さらに自動車を含む、全ての原因における事故でも同等の結果であることが分かりました。

 

なにが分かったか

今回のレビューでは、自転車に乗っている人でヘルメットを使うことでどれくらい頭部・顔面の外傷が防げるかの具体的な数字が分かりました。約60-90%リスクを下げてくれるというのは驚異的な数字ですね。

ランダム化比較試験がないのは残念でしたが、もしランダム化比較試験をしようとすると、ヘルメットを使う群とヘルメットを使わない群にランダムに被験者を割り振ることになります。

ヘルメットをしないで自転車に乗せる群が、怪我・事故のリスクが高いことは分かり切っているため、倫理的にそんな研究できないってことですよね。

お子さんにヘルメットをさせるのはもう必須だとしても、自転車を運転するパパ・ママもしっかりヘルメットしましょう。絶対ですよ!

今回は以上となります、何かの役に立てば幸いです。

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