こんな症状、あなたならどうする?

水いぼ 放置する?病院で治療する?

 

こんにちはアシュアです。インフルエンザの流行は少し過ぎてきた感がありますね。今回は水いぼの話です。実は、我が家では今水いぼが流行ってしまっていて、色々調べたので記事にしてみようかと思ったのがきっかけだったりします。

夏場になると、よく相談されるのが『幼稚園or保育園の先生に、水いぼが出来ているとプールに入れないって聞いて治療しに来ました』というヤツですね。本当にプールに入れないんでしょうか。

水いぼのoverviewと、実際どう対応するのが現実的なのかを書いていこうと思います。

 

水いぼと間違えやすい病気は?

ポックスウイルスというウイルスの感染症です。感染した皮膚にドーム状のきれいな皮疹を起こします。皮疹は肌色で大きさは数2-5mm程度で小さいです。皮疹は中に水を含む水疱というタイプの皮疹です。

小児科医的には、いわゆる水疱を起こす疾患の鑑別が大事になります。鑑別というのは、症状から考え得る疾患を推論して、診察や検査から原因疾患を見定めていくことを言います。急性の水疱を起こす疾患でよくあるのは、ヘルペスウイルス感染症(口唇ヘルペスなど)、水疱瘡(水ぼうそう)、手足口病、伝染性膿痂疹(とびひ)です(もちろんそれ以外にも沢山疾患はありますが、よく見る疾患を挙げるとこんなものでしょう)。この中で特に水ぼうそうについては、むちゃくちゃ感染が広がりやすい疾患という意味でとても大事です(空気感染なので、知らないで普通の診察室で診察してたりすると、隣の部屋の子どもにうつったりしてしまいます)。ちょっと脱線しましたが、『これは、間違いなく水いぼ!』と小児科医が診断するためには、他の水疱を起こすような疾患を除外する必要があります。幸い水いぼに関しては、上に挙げたような疾患と区別することは比較的容易です。以下に水いぼが水いぼらしい所見を書いてみます。

・水疱がある場所が局所で、集簇していることが多い

 =(分布が体の一部分に偏っていて、集まっている)

・サイズが大きくても2-5mm程度で小さくて、水疱のステージがほぼ一定

 =(だいたいどれも同じような形している)

・水疱は簡単に破けない、硬い水疱

 =(水ぼうそう、とびひは水疱が破れまくる疾患です)

 

水いぼはこどもの一般的な疾患で、下に書いたようにかかっている本人は困ることは少ないです。しかし、『社会的に困る』可能性がある病気です。『水いぼがあると幼稚園/保育園などでのプールが禁止されてしまう』ことがあり、お父さん・お母さんの悩みごとになりえます。(それは我々小児科医の悩みごとにもなります)。

 

水いぼのウイルスの特徴

文献的には、アメリカだと全こどもの5%未満が水いぼにかかっていると推察されています。

J Am Acad Dermatol. 2006;54(1):47.

『ポックスウイルスの慢性局所感染症』が、水いぼの正体です。基本的には局所感染しか起こしません。前述の『水ぼうそう』も『水いぼ』と似た病名を冠している通り、水疱の皮疹ができる病気ですが、こちらは全身に発疹がでることが特徴です。それに対して、水いぼは『感染した場所にしか』湿疹が出ません、これを局所感染と言います。全身に出ることはないけど、一か所に多発することがあるので、でた場所によっては見た目が悪くなる疾患ということになります。

大人では、免疫不全つまり、HIVウイルスに感染しているとき、免疫抑制剤による治療をしているときには、多く発生することがあります。

痛かったりはしないので、水いぼがあることで生活が困るということはないと思いますが、実は水いぼそのものは痒くないけれど、水いぼが生じている皮膚がカサカサになってかゆみがでることはあります。放置していると、掻きくずして他の場所に水いぼをうつしたり、夏場だと細菌感染を起こす(とびひですね)を起こすことがあるので、かゆみには保湿剤などを使用する必要があります。

 

潜伏期間、自然歴から思うこと

潜伏期間は、典型的には2週間から6週間とされています。水ぼうそうの潜伏期間は2-3週間ですのでちょっと似ていますが、水いぼの潜伏期間は長いと1か月半という所がミソです。2週間ならどこでもらったかとかは判断できるかもしれませんが、1か月半前だともはや何処で感染したのかとか覚えていることはまれですよね。そういう意味でも感染を防いだり、囲い込んだりすることは難しい疾患です。

また放置した場合にいつ治るかですが、海外文献Int J Dermatol. 2006;45(2):93. やPediatrics. 2013 May;131(5):e1650-3. Epub 2013 Apr 1. を見てみると『6か月~12か月で治る、また少数の症例で3-5年続くこともある』とあります。これは日本からの報告でも同様です。典型的な症例でも6か月以上は続くことが予想されます。

私が思ったこととしては、引っ掻いたりせず自然に放置できれば半年くらいで良くなるけれども、2-3歳くらいの年齢だと痒いと我慢できないし言ってもわからないので、治りかけてはまた別の場所にうつってというのを繰り返してしまいそうですよね。結果として3-5年かかってしまうということなのでは?と想像します。

 

水いぼの広がる経路

まず、水いぼのウイルスはヒトにしか感染しません。つまりペットを介して広がることはないということは言えます。

しかし、皮膚と皮膚の直接の接触で人の間では広がります。例えば、コンタクトスポーツ(体が接触するタイプのスポーツだと、皮膚と皮膚が接触した際にうつりますし、お風呂で同じスポンジを使用したり、タオルを使用することで家族内でもうつす可能性があります

また、人にうつさなくても、水いぼを引っ掻いた手で自分の他の皮膚を触ることで、広がってしまう可能性があります。例えば大人の顔面にできたりすると、髭剃りで他の皮膚に広がってしまったりします。こどもの場合は、水いぼの所を引っ掻いてその手でおまたやお尻を掻くことがあるので、肛門・性器病変の原因になったりしますInt J Dermatol. 2006;45(2):93. 

 

水いぼを広げないためにできること、プールについて

まずは引っ掻かないこと、そのためにかゆみをコントロールすることが大事だと思います。水いぼに関連する皮膚炎についての治療が必要ということですね。この場合保湿剤だけではなく、軽度~中等度のステロイド軟膏を用いることがあります。ステロイド軟膏を塗ると水いぼが大きくなるのではないか?治るのを妨げるのではないか?という意見もあるようですが、今の所ステロイド軟膏を使用することで水いぼが悪化するという科学的根拠はないようです。2週間程度塗ることで水いぼに関連する皮膚炎は治療できるとされています。

実際に皮膚科を受診してみるとわかることですが、水いぼだけだと思っていたらそれ以外の湿疹が混在していることもあるようです。水いぼ以外の発疹を直し、問題点を水いぼだけに絞ることが出来る点では、ステロイド軟膏を短期的に塗る作戦もアリだと思います

第2に共用物品を別にすることでしょう。前述したようにスポンジやタオルが問題になり得るので、別のものを使用させることで感染を防ぐことが出来ます。

そしてプールですが、こちらのリンク「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の概説」をご覧いただくとわかりますが、小児科学会の提言ではプールの禁止とは書いてありません

タオルや浮輪を共用しないこと、浸出液が出ている場合には被覆すること(防水バンドエイドなどで浸出液が漏れないようにする)を推奨しています。

水いぼがあるだけでプールを禁止にするような過剰な対応が無いように、また保護者としては他のお子さんにうつさないように、適切な対応をとることが望まれますね。

 

水いぼに困った時に。どの治療を選ぶ?

つらつらと書いてきましたが、じゃあ実際に水いぼが多発してしまったらどうするか・・・です。少し水いぼがあるだけなら無視しておけばよいですが、すごく多発してしまったら、さすがにプールに入れるのはいかがなものか、と考えるお父さん・お母さんは多いと思います(周囲の親御さんみんなが水いぼのことをよく理解しているわけではないですよね…)。その際に取り得る治療手段は大きく分けて三つです。

  • 取り除く
  • 液体窒素で焼く
  • 内服薬で治す

速効性で言えば、取り除く、液体窒素で焼く方法が優れています。取り除く処置に関しては、単純にピンセットなどのつまむ器具で水いぼを皮膚ごとつまんで取ってしまう処置なので痛みが伴います。貼るタイプの麻酔シートを細かく切って貼ることで痛みに対処する方法もありますが、水いぼの個数が多い場合にはなかなか大変なのと、全く痛みがゼロというわけにはいかないです。

液体窒素で焼く方法は、水いぼの部分だけ液体窒素を塗る方法です。他の皮膚につくとそこが焼けてしまうのと、液体窒素で焼けるまで10秒前後かかり、痛いというよりはかゆみが強いことから小さいお子さんにとっては辛い処置になります。

また、取り除く・液体窒素で焼く、いずれにしてもある程度の時間同じ姿勢で静かにしていないといけません。幼児のお子さんでは痛い・痛くないにかかわらず、じっとしている、ただそれだけが大変なことです。また肌に傷をつけるという意味では、取り除く・液体窒素どちらも肌に痕が残る可能性があります。

最後の内服薬で治す選択肢に関しては、もともと成人のいぼに対して使用する漢方薬である『ヨクイニン』が効果があるとされています。しっかりしたエビデンスはないと思いますが、まず味はそれほど悪くないので継続することに関して困難は少ないです。傷なく治る可能性があるという意味では魅力的ですが、1-2週間では効果がない場合もあり、それなりに長期に内服しないと効果が低い印象があります

 

水いぼが顔にできたら…どうしよう…

顔面に水いぼができることも当然あります、顔面も皮膚ですから。ただし、皮膚科医の先生に言わせてみると、顔面の水いぼに対して外科的に取り除いたり、薬剤で焼灼することはあまりオススメではないと言われます。なぜでしょうか。

それは顔面の皮膚は体の皮膚に比べて成長しにくいからです。

例えば、頭囲と身長で考えてみましょう。

頭囲 生まれた時33cm ⇒ 1歳で46cm 差は13cm

身長 生まれた時50cm ⇒ 1歳で75cm 差は25cm

と面積ではないので正確な評価ではないですが、1年間で言っても頭の大きくなり方よりも体の大きくなり方の方が大きいと言えます。つまり、体の皮膚の方がより成長に伴って面積が大きくなりやすいわけです

もし処置を行って傷が残ったりケロイドになってしまうと、体であれば皮膚が成長しやすいので傷も分かりにくくなりますが、顔面の傷は残りやすいと言うことができます。

長々と話してきましたが、自然治癒する疾患で、顔面は傷が体幹より残りやすいという事実もあって、顔面の水いぼに関しては積極的な治療を行わず勝手に良くなることを目指す方針をとる医者が多いと言えます。

そうなると、前述したように広がらないように普段の生活で気を付けていく他はなさそうですね。

 

まとめ

・水いぼは自然治癒する病気ですが、かゆみには対処しましょう

・水いぼでプールを中止にする必要はありませんが、タオル・浮輪を共用しない。バンドエイドで被覆するなど正しい知識を持ちましょう。

・治療は痛みを伴うものもあります。自然治癒する疾患ですから、治療をするかどうかはまじめに考えよう。

・顔面にできた水いぼは、いたずらに取ったりしない方がよいでしょう。

-こんな症状、あなたならどうする?

Copyright© 小児科医の子育て相談室 , 2024 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.