こんな症状、あなたならどうする?

こどもの肥満に、親の社会的ストレスが関連している??

Dr.アシュア
こんにちわ、Dr.アシュアです。今回は、外来でも結構な数の患者さんがいる『肥満』です。

肥満は、子どものうちに何とかしておかないと、、まずいです。

大人で肥満の程度が一番強いカテゴリーの高度肥満だと、ただそれだけで標準の体格の人に比較して死亡率が2.0倍!と言われています。 ただ太っているだけで、2倍死にやすい…驚異的です。

 

肥満に関連する面白い論文があったので、紹介したいと思います。出展は、Journal of Developmental & Behavioral Pediatricsの2013年10月から。

J Dev Behav Pediatr. 2013 Oct;34(8):549-56. 

Social and behavioral risk factors for obesity in early childhood.

Suglia SF1, Duarte CS, Chambers EC, Boynton-Jarrett R.

原文はこちらから

こどもの肥満に関連しているリスクファクターはたくさん報告されているが、ほとんどの研究が、リスクファクターを別々に評価している。この研究は、親の社会的なリスクファクターとこどもの問題行動と健康に関する行動を同時に評価して、こどもの肥満と関連しているかを研究したものです。

メインの検討は、親の社会的ストレス要因が多い=家の状態がストレスフルだった場合、こども肥満が増えるか、を検討した論文です。

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研究の対象者について-Patient

・Fragile Families and Child Wellbeing Studyという公的に使用できるデータを用いて解析をした前方向視的なコホート研究。

・アメリカの20の大都市で研究の対象となる『母-こどものペア』を選出している。75か所の病院から4898人の母-こどものペアが選ばれ、最終的に1589人のこどもが解析に入れられた。

・母の選択については、既定の人数になるまで、結婚で出産したケース/結婚せずに出産したケースをランダムに選択した。

・こどもの51%がアフリカ系アメリカ人27%がヒスパニックだった。

アフリカ系アメリカ人、ヒスパニックの人々は、経済的レベルが低く、社会的なストレスが高い集団と言われており、肥満が多い

 

方法-Method

・母親に対するインタビューで情報収集。出産時、こどもが12か月、36か月、60か月のときに情報収集を行った。

・社会的なリスクファクターは、こどもが12か月36か月の時に評価された。社会的リスクファクターとして検討した項目は以下の6個

社会的リスクファクター

・母の精神疾患の有無

・母の薬物・アルコール中毒の有無

・母のパートナーからの暴力の有無

・居住の安定さ

・食料の安定さ

・父の犯罪歴

6個の項目について、あり/なしの二値変数を設定。

あり⇒1点として、12か月・36か月で2回の測定を行い、合計点を累積スコアとして評定。

つまりスコアは0点から12点になる。

⇒累積社会的リスクスコアは平均で1.3(SD 1.5)だった。リスクファクターとんでもないものばっかりだったけど、思ったほど高くなくて、なんか安心(笑)

 

・こどもの問題行動の評価は、母が、こどもの60か月間のフォローアップ中に2か月ごとChild Behavior CheckList (CBCL)というチェックリストで評価していた。

・CBCLは、内向性、外向性を含む観察チェックリストで今回の研究では、内向性・外向性に絞って研究している。スコアを標準点Tスコアと比較し、>65点の場合に問題行動があると定義した(この定義は他の研究でも一般的に用いられる閾値である)。それぞれの性格志向は以下のような気質を示す

内向性⇒うつ気質、心配性気質、引きこもり気質

外向性⇒積極性の気質、破壊性の気質

 

・健康に関する行動についての評価

60か月のフォローアップの間に母にインタビューで情報収集した

・テレビの視聴時間 >2時間/日 or ≦2時間/日

・平均睡眠時間   ≦9時間/日 or >9時間/日

・炭酸飲料/ジュース ≧3杯/日  or  <3杯/日

それぞれの項目で、上記のように二値変数にして、どっちかに分類して評価した。

 

結果-Result

対象者の結果

統計学的解析をしていないので、まだ意味のあることは読み取れません。

・1589人の小児で51%が男児。51%がアフリカ系アメリカ人、27%がヒスパニック。

・女児の18%、男児の16%が5歳の時点で肥満だった。

・生活保護を受けているのは、女児の24.3%、男児の27.4%

・外向性の性格に問題を抱えているのは、女児の17.5%、男児の15.6%

・内向性の性格に問題を抱えているのは、女児の2.9%、男児の5.6% ※女児・男児で有意差あり

・テレビの視聴時間が2時間以上なのは、女児の62.2%、男児の63%

・睡眠時間が9時間以下なのは、女児の54.4%、男児の47.3% ※女児・男児で有意差あり

・炭酸/ジュースが3杯以上なのは、女児の63.4%、男児の60.8%

・社会的リスクスコアは 全員0~2個のどれかに該当していた。

 

  0個 1個 2個 合計
女児 43.5% 23.2% 33.4% 100%
男児 41.1% 23.4% 35.4% 100%

定義した社会的リスクファクターの項目がドギツイので、1個、2個の人達でも結構すごい家庭で育ってるなって印象…

 

親のリスクが多いと子どもは?

さてここから大事なresultですが、社会的リスクファクターが0個、1個、2個で、性格の問題が増えているか、生活習慣の問題が増えていないかの検討です。

男児での検討

女児での検討

社会的リスクスコアが1個、2個と増えるにつれて、男児・女児ともに外向性の性格に問題を抱える割合が上昇した

男児では、社会的リスクスコアが増えるにつれて、睡眠時間9時間以下、テレビの視聴時間が2時間以上、ジュースの消費量3杯以上の割合が上昇した

女児では、社会的リスクスコアが増えるにつれて、ジュースの消費量3杯以上の割合が上昇した

 

交絡因子を調整すると?

交絡因子:人種・民族、母の教育レベル、母の婚姻状況、生活保護の受給状況

外向性の性格に問題を抱えることと内向性の性格に問題を抱えることは、お互いに交絡因子になると考えて、モデルを2つ作って、片方を検討するためにもう片方を交絡因子として調節するという検討方法を行っています。効果の指標としてPR=prevalence ratio(有病割合の比)を用いています。 PR 1.3ということは、1.3-1.0=0.3 つまり30%リスクが増えるという理解です。

女児では社会的リスクが多いグループでは肥満が多い

リスクファクター1個 PR 1.32 (95%CI 1.1, 1.6)

リスクファクター2個 PR 1.54 (95%CI 1.3, 1.9)

男児・女児ともに、外向性の性格に問題を抱えているグループでは肥満が多い

girls PR 1.5 (95%CI 1.2, 1.7) boys PR 1.3 (95%CI 1.1, 1.6)

男児・女児ともに、睡眠時間が9時間以下であるグループは、肥満が多い

girls PR 1.2 (95%CI 1.0, 1.4) boys PR 1.3 (95%CI 1.1, 1.5)

男児では、テレビの視聴時間が2時間以上のグループだと、肥満が多い

PR 1.5 (95%CI 1.2, 1.9)

 

論文の考察

社会的なリスクファクターが多いということは、ストレスフルな環境で生活しているということです。著者らは、親がストレスフルな環境にさらされると、こどもの要求に対して適切な配慮をしなくなるので、こどもをより簡単にコントロールするためにテレビを使ったり、リクエスト通りにジュースを与えたりするのではないかと書いています。

今回の研究では、男児ではテレビの視聴時間、ジュースの消費量に関してはその通り、という結果でした。逆に女児ではそうでもないという結果だった。著者らは、その原因として使用していた評価尺度がいまいち正確ではなかったのでは?と考察しています。つまりChild Behavior CheckList (CBCL)というチェックリストのことですね。

 

また、『外向性の性格に問題を抱えていること』と『肥満』が関連しているという結果も興味深いですね。今までの研究でも指摘されているようですが、外向性の性格に問題を抱えているということは、分かりやすく言えば、衝動性が強く、自己統制能力が低いということです。つまり、衝動的に過食する、甘く・高脂肪の食事を食べることにブレーキがないという事になり、肥満を引き起こすということですね。

今回の研究では、内向性の性格の問題と肥満との関連性は認められませんでしたが、実は先行研究では真逆の結果がすでに証明されているようです(うつが特に女児の肥満と関連しているという研究結果など)。本研究では先行研究と結果が乖離した訳ですが、その理由として著者らは、対象者が5歳児であり、そもそもうつ気質を含めた内向性の性格に問題を抱えている人数自体が非常に少ない集団であったことを挙げています。

 

この研究から示されたこと

社会的なリスクファクターが増えれば増えるほど、5歳時点での肥満が起こりやすい。

外向的な性格に問題を抱えている場合、健康に関する問題行動(睡眠不足、ジュースの飲みすぎ)がある場合、5歳時点での肥満と関連する。

詳しくは、

・女児では社会的リスクファクターが多いグループでは5歳時点での肥満が多い。

・男児・女児ともに、外向性の性格に問題を抱えているグループでは5歳時点での肥満が多い。

・男児・女児ともに、睡眠時間が9時間以下であるグループは、5歳時点での肥満が多い。

・男児では、テレビの視聴時間が2時間以上のグループだと、5歳時点での肥満が多い。

 

結果を僕らの社会に当てはめられるか

結論から言えば、限定的に結果を解釈する必要があると思います。

対象集団がかなり異なる

日本の平成27年度学校保健統計からの報告では、5歳の肥満児の割合は男児で2.34%、女児で2.24%です。

論文ではBMIパーセンタイル、日本では肥満度を用いているので、厳密には比較はできませんが、この論文のアメリカの集団と日本の集団と比べると、どうもこの論文の集団の方が肥満のこどもが多そうです。また、生活保護を受けているこどもが2割~3割いる状況です。

日本での正確な生活保護受給者の割合は、パッと厚生労働省のサイトを見てもわからなかったのですが、

http://tmaita77.blogspot.jp/2011/12/blog-post_15.html

こちらを参考にしてみても、明らかに日本よりは割合が多そうです。

また、社会的リスクファクターに関しても衝撃的なものがつらつら並んでますよね。

母の精神疾患の有無、母の薬物・アルコール中毒の有無、母のパートナーからの暴力の有無、居住の安定さ、食料の安定さ、父の犯罪歴

どれか一つでもあったら、結構大ごとだと思うのですが、この集団だと子供たちの半数を少し超えるくらいの大部分が一つはリスクファクターを抱えていると。中々の猛者を集めた集団です。

 

ということで、対象集団が日本とはポピュレーションとして異なるため、この研究結果がそのまま日本に当てはめられないだろうというのは、わかります。外的妥当性が低い研究と言えます。

詳しい研究デザインにまで踏み込んで読み込んではいませんが、おそらく選択バイアスは生じうるのではないでしょうか。

バイアスはある?

アウトカムの測定方法として、こどもの行動を評価するチェックリストがいまいちだと著者らが述べていますね。ただ、著者らもそれは折り込み済みで、limitation(研究の限界点)として論文内に記載しており、それでも今回の研究の臨床的意義はあると訴えています。

交絡因子の不足は?

交絡因子として、人種・民族、母の教育レベル、母の婚姻状況、生活保護の受給状況を調整した上で結果を出しています。交絡因子は、出てきた結果の解釈をゆがめるものなので、考えて測定しておかないと調整できませんが、私が考えるだけでもちょっと交絡因子が不足している感があります。

例えば、両親の清涼飲料水の飲む量やテレビの視聴時間は、こどもに影響を与える可能性があるので、交絡因子になりそうですが、今回は調整されていません。

論文を読んでのまとめ

交絡以外のバイアス(=選択バイアス・情報バイアス)はあるかもなので、測定されたデータが間違っている可能性は否定できないけど、交絡因子は調整されているので(ちょっと足らない印象はあるものの)データの比較自体は比較的信用がおけそうです。

うのみにはできませんが、論文を読んで自分ができると思ったことを挙げます。

親が社会的リスクファクターを多く抱えると、こどもにテレビやジュースを安易に与える行動に走り、こどもを肥満に導く可能性がある。それをまず理解する(リスクファクター:母の精神疾患の有無、母の薬物・アルコール中毒の有無、母のパートナーからの暴力の有無、居住の安定さ、食料の安定さ、父の犯罪歴とかなりドギツイ)。

5歳未満のこどもに睡眠をしっかりとらせることは、体格維持に大事かもしれない

 

実臨床でも、肥満のご家庭が実は生活保護だったりする話は、まずまずある話です。

色々この論文に文句も言いましたが、出てきた結果には僕的にはフムフムと思って読んでいました。

そう考えると、肥満を減らすためには、社会的な基盤を何とかしなければいけない。

こどもの肥満が完成してからそれを治療するよりも、予防医学的な観点から社会的なリスクファクターを減らすような施策を国が行う方が、肥満のこどもを減らすために効果的ではないか、と思ったりしますね。

以上となります。参考になれば、幸いです。

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