こんな症状、あなたならどうする?

不登校のお子さんに小児科医がしてあげられることとは?

こんにちわ、Dr.アシュアです。今回は、こどもの不登校について書いてみようと思います。

最近不登校関連の新しい法律が施行されたりと、世の中としては「絶対に学校に通わなければいけない」という神話が崩れつつあるところです。

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がしかし、「こどもが学校に行かない、行けない」という悩みを持つ親御さんはやはりいらっしゃいます。不登校と小児科、あまり関係がないようで、実は小児科医にとってはcommon(よくあると言う意味)なケースだったりします。不登校のお子さんに、小児科医は何がしてあげられるのでしょうか。見ていきましょう。

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そもそも不登校の「定義」って何?

文部科学省では、「不登校児童生徒」とは以下のように定義されています。

「何らかの 心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、 登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を 除いたもの」

↑のリンクに文部科学省のPDFが載っています。

 

不登校のお子さんが小児科を受診する理由とは?

不登校のこどもは、約75%が不定愁訴を訴える。

子の心とからだ[JJSPP]2017,25(4):407-409

不定愁訴とは、「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、何となく体調が悪いという自覚症状を訴えるが、検査をしても原因となる病気が見つからない状態を指します。

様々な症状をきっかけに不登校になり、両親が困って小児科に相談に来るといったケースが多くあるという事ですね。

お母さん・お父さんは、お子さんを悩ましている不快な症状に、何か原因となる病気があって、それが解決すればまた学校に行けるのではないかと考えるのだと思います。

個人的な印象ですが、新学期が始まって1か月くらい経過した5月、10月が不登校の相談が多いような気がします。

 

不登校のお子さんに小児科医がしてあげられることは?

小児科医は、不登校のお子さんが外来を受診した時にどんなことが出来るのでしょうか。3つのことが考えられます。

医学的な問題の鑑別・診断・治療

不登校のお子さん、ご家族に対して問診・身体診察・各種検査を駆使して、まず症状を説明しうる『病名』を探します。

『病名』が診断できれば『治療法』があるので、『病状の軽快』が期待できます。非常に論理的な道筋です。

もし上手く治療ができ、お子さんを悩ます不快な症状が軽快すれば、不登校が改善する可能性が高まることになるでしょう。

 

手始めに、Common、Curable、Criticalと言われる、良くある疾患、治療法がある疾患、重篤になりうる疾患を見つける手法が有効です。

例えば、「慢性頭痛」ならば脳腫瘍はCurableでCriticalな疾患ですので、問診・診察・検査などで必ず除外したいですね。

例えば、「めまいがする、ふらつく」といった症状ならば脳腫瘍の他にも、重度の貧血を起こすような病気(血液腫瘍や、消化管出血など)は、Criticalです。

 

不定愁訴への対症療法、継続的な診療

問診・診察・検査によってもこれといった異常が認められず、原因が分からない場合、そのお子さんが困っている症状を薬で緩和することが我々小児科医に求められます。症状に対する治療、これを「対症療法」と言います。

例えば慢性頭痛であれば鎮痛薬の処方、吐き気があるのであれば制吐剤の処方が、この対症療法に当たります。

 

この対症療法を行う時には、僕は注意していることがあります。それは、「対症療法をすることで病状を悪化させないようにする」ことです。

実は、対症療法が時に元々の病状を悪化させることがあります。有名どころでは、慢性頭痛に対する鎮痛薬の投与です。

薬物乱用性頭痛は、鎮痛薬の過剰内服を原因とする、難治性の頭痛のことである。

単剤の鎮痛薬(アセトアミノフェン)で15回/月以上、3か月以上の内服を行うと、薬物乱用性頭痛が起こりやすい。

Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS).

The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition (beta version). Cephalalgia 2013; 33:629.

つまり、漫然と鎮痛薬を処方して患者さんに鎮痛薬をどんどん使うように話していると、逆に頭痛を悪化させることがあるという事です。

小児科医としてというか、医者としての倫理ですが、「患者にとって良いことをする」のと同等に、「患者にとって悪いことをしない」という事は非常に重要です。そのために我々医師は学び続ける必要がありますね。

アクション(=処方)したら、評価(=効果があるかないかの判定)して、リアクション(処方を継続するのか、変更していくのか)が原則です。効かないのに漫然と同じ処方を続けることは、副作用の観点や前述の薬物乱用性頭痛のような事もありますし、明確な悪です。

 

支援の入り口としての役割をする

不定愁訴は遷延し、不登校も慢性化する、その結果外来診療も徐々に煮詰まってくる…というケースもあります。

小児科で外来をもつドクターならば、必ずそういったお子さんを複数名抱えている方が多いのではないでしょうか。日々悩み色々な方針で治療をされていると思います。

自分が見てきた中で、小児科医がそういった患者さんをどのようにマネジメントしているかというと、次のどれかに分かれるように思います。

  1. 自分の検索した範囲内で身体疾患がないので、可能性のある身体疾患の除外・診断のために高次の小児病院に紹介する。
  2. 身体疾患の可能性が低いと判断し、精神疾患の可能性を考えメンタルクリニック・精神科などを紹介する。
  3. 高次の小児病院やメンタルクリニックなどに紹介せず、自分の外来でフォローを継続する。

ただし、家庭内の問題(虐待,ネグレクト,家庭機能不全,貧困など)が存在している場合には、児童相談所や地域の家庭児童相談課など福祉行政へ家族を繋げることが必須です。小児科医が、支援の入り口としての役割を担う場合もあるということですね。

 

まとめ

不登校のお子さん、家族に小児科医がしてあげられることについて解説して見ました。

不登校のお子さんを抱える家族は、困り果てた結果病院を受診されるケースが多いです。

身体疾患がないからすぐにフォロー終了!という形ではなく、患者さんの背景や家族の情報などを想定して柔軟な対応が求められます。

実際は、なかなかすぐに高次の小児病院やメンタルクリニック、精神科などを紹介するというのも現実的ではないケースがほとんどです。一通り問診・診察・画像検査を行い大きな異常がなく、明らかな精神症状(被害妄想や幻覚、希死念慮など)が無いお子さんが多いからです。

ですから、僕の場合高次医療機関を紹介せず、自分の外来でフォローしていることが多いように思います。

その場合も、ただ漫然とフォローを継続することが実は患者さんの不利益になる可能性があるため、以下のようなことに気を付けてフォローしています。

  • 高次の医療機関への紹介、メンタルクリニックへの紹介はいつでもできることを説明する。紹介したとしても自分の外来はすぐに終了しない。
  • 体重、身長の変化を必ず記録して、身体疾患が顕在化してきていないか気を付けてフォローする。新たな症状の出現時や症状の増悪時には、必要な検査を繰り返して再評価する。
  • 生活リズムが整っているか、必ず確認する。
  • 効果のない対症療法を漫然と継続しない。
  • 僕一人で見ない(臨床心理士さんと協力する)。

 さらに一番大事にしていることは、不登校の患者さん本人との会話を大事にすることです。外来で自分と会話するのは常にご両親で、当の本人は一言も話さないという事が多く見受けられます。

私は、患者さんとの関係ができてきたらなるべく本人のみ外来に呼び込んで、ご両親には外で待ってもらっている形式をとるように心がけています。それが難しい患者さんにおいても、常に本人に話かけるようにしています。

 現状の生活から、本人が考えている望ましい生活へ少しでも変化を起こすためには、患者さん本人が現状をどう感じているのか、今後どうなりたいのか、何がしたいのかを把握することがとても大事です。もし身体疾患がなさそうで、精神科やメンタルクリニックへ紹介するような精神症状がないということならば、体に現れる症状はあるけれどもちょっとでいいから無理をするようにお話ししています。そして無理をするといっても何をしたらよいか分からないので、具体的な目標を立てます。たとえば、日中に必ず外出するとか、症状が治まって来たら家事をするといったことです。

 学校に行かない・行けないことそのものは、私個人の力で簡単に変えられるとは思いません。最終的には本人が回答を出していくことであると思います。学校へ再度行くという選択も、学校へ行かないで他の方法で自らを鍛えていく選択をすることも、本人が選択したのならそれが一番よい方法なのだと思います。一番良くない事は患者さんが家族のみとしか接しなくなること、一人でいること、考えることをやめることだと思います。ですので、病院に来てくれる患者さんの場合は、自分は家族ではない人間として患者さんと対等な立場で、親ではなく本人と何でもよいのでとにかくコミュニケーションをとることを大事にし、その行為が患者さんにとって意味があることと信じて、外来を継続しています。

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